第12話 ゴールデンウィーク

 ゴールデンウィークを迎えると、学園中が静かになった。多くの生徒が帰省し、残っているのは私のような訳アリの生徒や勉強熱心な生徒が合わせて三十人程度。いつもは賑わう寮の食堂も閑散としていた。


「二人も残るんだね」


 初日の朝。食堂へと赴くと未琉がぽつんと座ってロールパンをはむはむと食べていた。せっかくなら、と思いクロワッサンとコーンスープを取って未琉の真向いに座ると、そこへ山盛りのご飯と焼き魚を携えたあめもやってきた。


「家に帰ったって怒られるだけだからな。帰らなくても怒ってきやがるけど」


 ああ嫌だ嫌だ、と言いながらあめはご飯をがっつき始めた。


 未琉も手を拭いてから答える。


『家の手伝いばかりさせられて実験する時間がなくなるから嫌。舞理はどんな理由で?』


「私は、親に向ける顔がないっていうか……。家出したようなものだから、帰り辛いんだよね」


 三者三葉の在留理由。誰も勉強のために、とか言わないのがらしいと言うか、何と言うか。


「お。三人ともここにいたか」


 するとそこへ栗枝先生も現れた。体育の授業でもないのにこれだけ揃うのは珍しい。牛乳がなみなみと注がれたシリアル食品を机に置き、先生も椅子に座った。


「お前ら今日暇か? 暇だよな」


 有無を言わさぬ笑顔で確認を取る先生。朝食の時間が終わるギリギリに来ているから忙しいわけがない、と思われている。そして実際に私達は暇であった。


「んじゃ、龍神たつかみんとこに邪魔しに行くか」


「おっしゃ! 乗ったぁ!」


 先生に暇かと問われた時は嫌そうな表情を浮かべたあめだったが、次の言葉を聞いてすぐに態度を変えた。なんともわかりやすい性格である。


『私は実験室にいたいんだけど』


「実験に使える材料取り放題だぜ」


『行く』


 未琉が目を光らせた。


根音ねおとは杖の材料探しな」


「はい。これでやっと私専用の杖が作れるんですね!」


「ああ。……たぶんな」


「え。何ですかその不安になる言葉……」


「お前を見てると、いわゆる〝杖〟の形をした杖が合っているのか不安になるんだよ……。だが物は試しだ。一度作ってみないことにはわからない」


「……はあ」


 そんなこんなで朝食を食べた後、私達は先生に引率されながら龍神神社へと赴いた。


 初夏の日差しを浴びながら、神社への道のりを歩く。ほんのりと暑さを感じるが、緑豊かな光景を目にしながら歩くのは気持ちが良い。


 緑ばかりの中で一際大きな存在感を放つ朱色の鳥居が見えてくると、その脇で彗が待ち構えているのも目に入った。


「皆様、お待ちしておりました」


 巫女服姿の彗が深々とお辞儀をする。相変わらず無駄のない綺麗な所作だ。しかし顔を上げると一瞬だけあめに向けて露骨に嫌そうな表情を見せた。


「連れてきたぞ。掃除要員」


「「『掃除?』」」


 先生の言葉に、私、未琉、あめの三人が首を傾げた。掃除なんて話は一度も聞いていない。


「はい。皆様には午前中いっぱい、境内のお掃除をしていただきます。落ち葉を集めたり、雑草を抜いたりするだけの、簡単な奉仕作業です。その報酬として、杖や魔法薬の材料をお好きなだけお持ち帰りください」


 本日はどうぞよろしくお願いいたします。と彗がこれまた丁寧に頭を下げた。どうやら私達は体のいい労働者として送り込まれたようだ。


 これはさぞあめが怒るのではなかろうかと内心で冷や汗を掻いていると、案の定彼女が声を荒げた。


「午前中いっぱいってことは、昼飯出るんだろうな」


(ご飯の心配かよ!)


「ええ。ご満足いただけるかわかりませんが、ご用意しております」


(出るんだ!)


「おっし! ならやってやろうじゃねぇか!」


(ご飯出るならいいんだ!)


 何はともあれ無駄な争いは回避された。

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