第11話 Ⅱ科B組って……そもそも何?
四月中は栗枝先生に教わりながら魔法の練習をしたり、未琉と共に魔法薬の調合をしたり、初回よりは手加減した
「使ってる杖が駄目とか、そういう外的要因って……」
「無いな」
杖作りは一旦保留にしてあるため、現在は学校の備品である杖を使用している。不慮の事故で杖が使用不能になった時などに備えて、何本もストックがあるらしい。
「自分によく馴染む、もしくは全く馴染まない杖以外は、実は使い勝手に変化はほとんど見られないんだ。だから、杖を変えても魔法が全然成功しないってことは、お前に原因があるとしか考えられない」
「そんなぁ……」
枯れかけから満開の綺麗な状態にしようとしてカピカピに干からびさせてしまった花と共に、私はへなへなと萎れた。
「魔法族の出身じゃないことを踏まえて考えても、こうも失敗続きなのはおかしいんだよな……。まぁ、だからⅡ科B組に入れられたんだろうが」
うむむ、と先生が悩み始めた。ああ、やっぱり私、一番の問題児なんだなぁ……。
「あの、ところでずっと気になってたことがあるんですが……」
「なんだ?」
「Ⅰ科とⅡ科の違いって何なんですか? 制服の色があっちは紺色でこっちはえんじ色なことくらいしか、今のところ違いがわからないんですが。あと、Ⅱ科のA組とB組の違いも何かあるんで——」
ガタバタゴチャン!
「——す、か」
特に何か変な質問をした覚えはないのだが、何故だか先生が急に暴れ出した。
「……敵襲でもありましたか」
発作が収まったように静かになった先生は、乱れた髪や服装を整えながら言った。
「お前それ絶対他の奴らの前で言うなよ」
「……はあ」
「返事は『はい』だ」
「はい」
「よろしい」
先生は頭を抱え、暫くの間うんうん唸っていた。こうした先生の言動から色々と察することはできるが、ではなぜそうなったのか気になるのが人というものだ。
「Ⅰ科とⅡ科で仲悪いんだなってのは想像つきますけど……食堂でもたまに避けられますし。どういう理由があってそうなってるんですか?」
「……じゃあ、単刀直入に聞くが、いつも暴れている奴と一緒にいたいと思うか?」
「いいえ……あ、そういうことか」
先生と一緒に私も頭を抱えた。これでは自分で自分を危険人物だと認めたようなものだ。入学初日からわかっていたではないか。問題児を集めたクラスなのだと。私には今のところ魔法が使えないという問題があるだけで素行に問題はないが、だからこそ先生は私に「お前も問題児枠だ」と伝えることを悩んだ……のかもしれない。
私は初回の体育の授業以外で暴れてないのに……!
「まあ、もう少し具体的に説明すると、普通の……つまり魔法使いでない一般的な高校で言うと、Ⅰ科は普通科に当たる。広く浅く、魔法の勉強をしているわけだ。んで、Ⅱ科は専門学科ってわけだな。既に将来就きたい職業を決めている奴や、何かしらの魔法に特化している奴……が、A組に入れられる」
「……B組は?」
非常に言い辛そうな顔で、先生がぼそりと呟いた。
「特化型の問題児集団だ」
「……」
私って、特化型の問題児だったのか。
「初池に入学できるだけの、特化した魔法の才能、特性があるのはいいんだが……その方向性が問題なんだよな。A組はそれが社会で役立てることができるものなんだが、例えば火野屋の場合は爆発させることに特化してるだろ? ……役立てられる場面が思い浮かぶか?」
「ううん……特撮ヒーローの戦闘シーンか、アメリカの解体工事しか思い浮かびませんね」
「だろ?
「ああ……」
確かに未琉は、交流が得意なタイプには見えないし、社会の役に立ちたいと思うような人物にも見えない。一人で好き勝手に実験することを楽しむタイプだ。
「そんな問題児を普通の奴らと一緒にしても、双方にとって迷惑だから別々にしているんだ。一応言っておくが、お前のことを悪く言いたいわけじゃないからな」
「はい」
「とは言えお前の能力も、十中八九問題ある側だ。それが何なのかわからないのが、現状で一番の問題だな」
「……やっぱり悪く言ってますよね?」
「気のせいだ」
絶対違います。
「とにかく、何かに特化した奴は、別の何かが不得手だったりするもんだ。だから互いの苦手を補いつつ協力することができるようになるために、問題児を集めたⅡ科B組が存在する。そういうわけだ」
「はあ……。なんとなく、わかりました」
「うむ。よろしい」
そう言われてみれば、期末試験では協調性が鍵となる、という発言にも納得する。詳しい試験内容は定かではないが、魔女学園なのだから魔法を使うに決まっている。もしドラゴンが守っている卵を取ってこい、なんて内容だったら、爆発を起こしているだけでは卵まで巻き込みかねない。ドラゴンが実在するかの方が定かではなさすぎるけど。
「ああ、そう言えばもうすぐゴールデンウィークだが、お前は実家に帰るのか?」
突然の話題変化に私は虚を突かれた。先生は何でもない世間話のように言っているが、実家という単語を出されると私は深く心を抉られた気分になった。
「いえ……家出するような形でこっちに来たので、実家には……」
普通の家庭で生まれ育った普通の子供が「魔女学園に行く」と胡乱なことを言い出したら、親子喧嘩は免れない。親としては普通の、普通科の高校に行ってほしかったはずだ。しかし私には初池魔女学園への入学が決定しており、何人たりともそれを覆すことはできなかった。普通の学校の入学試験も受けたが全て不合格。魔法の力が働いたとしか思えない。結果として家から追い出されるようにこちらに来た。
言葉を濁す私に、先生は特に気にすることもなく……と言うよりも、それは都合がいいといった様子で返した。
「そうか。なら休み中に杖が作れるな。藤の花が見頃を迎える時期だ」
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