第7話 魔法薬作り

 杖作りは藤の花が咲くまで延期ということにし、午後からは魔法薬作りの時間となった。再度第二実験室を訪れた私と未琉の前で、栗枝先生が宣言する。


「明日使える火傷治しの薬を作るぞ!」


 作業台の上に用意されたのは、アロエと……薬草らしき草花が数種類。これらを煮るなり焼くなりするのかと思うとわくわくしてきた。いかにも魔女っぽい。


「今から作るのは比較的簡単な魔法薬だ。しかし、だからと言って手を抜けば、明日の自分が泣くことになる。薬袋みない。お前は目を瞑っていても作れるだろうが、ちゃんと目を開けて根音ねおとが変なことしてないか見張っておくんだぞ」


『了解』


「……私って変なことする人だと思われているんですか?」


「さっきナポレオン像を爆破させたばかりだろ」


 そう言われてはぐうの音も出ない。


「っつーわけで、薬袋。後は頼んだ」


「『えっ』」


 先生は私に薬の作り方を教えるでもなく、急いだ様子で実験室を出ていった。何か他にやらねばならないことでもあるのだろうか。


「あーっと、それじゃあ未琉。よろしくお願いします」


 呆けていても仕方がないので、私は未琉に対しぺこりと頭を下げた。今この時は彼女が先生だ。


『うん』


 私は未琉の指示に従いながら魔法薬作りを始めた。アロエの中身を取り出し、薬草を細かく刻み、火にかけた鍋に入れて混ぜ合わせ……。薬と言うよりも料理を作っているみたいだ。


 暫くすると、鍋の中がねばついてきた。求肥のようなもったり感がある。


『ここから注意が必要。熱を加えすぎると硬くなって使い物にならなくなる。タイミングを見計らって火を止める。早すぎても駄目。使いにくくなる』


「わ、わかった」


 そのタイミングっていつ⁉


 手に汗握りながら私は鍋の中身を掻きまわし続けた。段々とその動作がゆっくりになっていく。いつだ。いつなんだ火を止めるタイミングは。いつまで……。


『今』


「えっ⁉ あ、はい!」


 私は慌ててガスバーナーの火を止めた。久し振りに使ったから少し手間取ってしまったが、薬は大丈夫だろうか……。


『薬を瓶の中に入れて』


「うん」


 材料と共に用意されていたガラス瓶の中に、今しがた作り終えた魔法薬を慎重に入れていく。こうして見ると軟膏のようだ。


 今まで指示を出すだけだった未琉が、匙についた薬を指で拭き取った。手の甲に塗ってみたり、親指と人差し指の腹で擦り合わせたりしている。私はその様子を黙って見守った。


『触ってみた感じは、悪くない』


「本当に⁉ じゃあ、魔法薬としてバッチリ使える、かな」


『それはわからない。火傷を治す薬だから、火傷をしたところに塗ってみないと効果の程は不明』


「だよね……」


 それでも一応は魔法薬を作ることができた。火傷なんてしたくないから使う日が来ない方がマシなのだが、どれほどの効果を発揮するのか試してみたい気持ちもある。


(ふふ……。初めての魔法薬作り、ほとんど成功……あ)


「これって、あれだね。初めての共同作業」


「……っ」


 息の詰まった音が聴こえてきたかと思うと、未琉が私の脛を勢いよく蹴ってきた。


 普通の傷薬を作るのが正解だったかもしれない。

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