3章 『タイセイの謎を追え』

第19話『マサキの部屋と外縁支援』+Log:3

 コグニスフィアに帰還後。

 

 外縁部で気に掛かった些細なことではあるが。

 高度な亜人種煽りについて、流石にレヴィ本人に聞く訳にも行かず──『何が失礼で、どこがダメか』をソータに尋ねたところ「俺に聞くな。マサキにでも聞け」と逃げられてしまい。

 

「なぜ。俺に」


 マサキは迷惑そうに、それでも奥へと案内する。

 一応相手はしてくれるんだな。


 各エリアのGM専用スペースは、レヴィが緑豊かで日当たりの良さそうな中庭、ソータが異国風のテラスの趣。

 さて、戦略GMマサキの専用エリアは、どれほどロジカルな──。


「うわ! すっごい──……、ベーシック!!!」


 思わず素直な感想が漏れてしまう。


 グレーとナチュラルホワイトが基調の広々とした空間。壁面ホワイトボード。明らかにフェイクな観葉植物が角に1つ。

 もう絶対『グリーン01 Aタイプ』とかカタログに載ってるだろこれ!


 カタログの見開きモデルルームページ。

 『お客様が想像しやすい、無難なスタンダード』って言われた内装コーディネーターが組む汎用性の権化、なんならその3Dモデル初期アセットにあります──みたいなやつ!


 生活感、なんですかそれ? な、最低限以上は何もない!

 長方形の机の上にはペンと正方形のメモがきっちり等間隔で並べられている。マス目だ!


「机の上、全部定規で計ったろ」


「してませんよ」


「嘘だっ!! 絶対5mm間隔で並んでる!!」


「3mmです! この程度、定規など不要!」


 マジか、と定規を借りて当ててみると本当に3mm感覚だった。こわぁ……なんだこいつ。


「引き出しの中も、きっちりしてそうだよな~」


 メモリが悪気無く開こうとすると、凄い勢いでばし!と閉じられた。

 焦りを感じる、レヴィ並の瞬発力。


「見ないでください、プライバシーですよ」


「あ。ごめん」


 ええー、この雰囲気でプライベートが引き出しにあると思わなかった。

 いや、逆にめちゃくちゃ気になるわ。何入れてんだよ。

 ちょくちょく謎だよなマサキって……。


「レヴィさんは身嗜みに相当気を付けていますよね。猫系亜人種は大概そうらしいですが。まあ、他の亜人種からは軟弱とか、媚びだと見られることもままあるようです」


 突然本題に入られる。

 ──誤魔化したな、マサキ。


「つまり本題は『臭う』という表現で、その最低限の身嗜みすらできない『雑魚』という意味でしょう」


「婉曲過ぎだろ!! 分かりにくい!!」


「因みにこれは鳥、猫系に限る煽りですね。犬、熊など大型は臭いがマーキングも兼ねている為、縄張りを誇示するという意味で、むしろ誉め言葉になります」


「相手次第なの?! 難易度たっか!!!」

 じゃあ褒めてるつもりで良い匂いって言ったら猫系には侮辱だったり、褒めてるつもりで匂いに気を遣ってるんですね、って言ったら犬系には侮辱だったりすんの?! その境界線分からなくないか??? どこ??


「もうひとつの言葉は絶対に、二度と口に出さないでください。猫系亜人種の前では特に」


「え」

 そんな重い言葉だったのか。


「しかしそのロイという奴。戦意が低かったというのも、怪しげな人間を通すまいと考えたんでしょう。彼らの中でも自警団側の者かもしれない。もしも人攫いの一員なら、その言葉でそこまで怒る筈がなく、外敵ではない、と認めたから戦意を喪失したのでは」


「ああ、なるほどな。流石にあの数字の下りようは──そういうことか」


「レヴィさんの返しが『尻尾振り』……そうですね、『人攫いの手下の雑魚』に対して『二流』位が適当かと」


「あれそういう意味になるんだー……分かんねぇ」

 げんなりしてきた。

 これは、もはや全く別の文化層があると考えなければ。


「んなの分かる訳ないだろ~……。なんかそういう一覧とかくれよ、これは言っちゃダメだみたいなさ」


「は? 嫌です。自分で痛い目見て覚えろ」


 ふん、と腕組みして言い捨てるマサキの姿に。

「見たのか? 痛い目」と聞けば。


「………………はい、まあ」


 絶妙に、謎に素直なんだよな、ところどころ。

 そこへ、チャイムが鳴った。応対したマサキが、ちょっと驚いた様子を見せる。


「レヴィさんです。通しても?」


「え、あ、うん。それじゃ──」

 部屋を出ようとするも、制され。迎え入れたレヴィから、おや、という顔をされた。


「いつの間にお二人とも、仲良しさんに?」


「ん~まあ「仲良しじゃないです」かな」


 メモリとマサキの声が被った。ふ、とレヴィの緊張が解ける。──緊張?


「すみません、その。マサキさんとふた……りに……、ああ。いえ、『一緒に』聞いて貰えますか?」


 レヴィの言葉が途中で一瞬緩慢になる。耳が奇妙な緩さで下がりかけ。直ぐに元通りになった。

 今の間、不自然じゃなかったか?


「外縁の、支援が決まったでしょう? その件で」


「俺に?」


 マサキの眉が寄る。


「はい。GMとしてではなく。個人的にですが。お願いを」


「ああ。チャリティとか、寄付なら予算枠が──」


「いえ。貴方の父上、二井煌騎(ニイ・コウキ)さんに」


 途端にマサキの顔色が、変わった。


「……俺を経由して父に頼るのは成功確率、ゼロです。ありえない」


「えっ!?」


「レヴィさん。下調べした上での話ですか」


「なあ」

 突如としてひりついた空気に、メモリが割り込む。


「なんで急に真四角方眼紙みたいな会話始めてんの? てか、マサキんちってそんな金持ち?」


 レヴィがネクタイを締め直し、佇まいを正す。

「いえ、メモリさん、これは正式なお願いとしてですから──」


「正式も何も」


 マサキが溜息。


「まともなルートで申請した方が確実ですよ」


「もう三回却下されました」


「「はっ!?」」

 マサキと声が被る。


「二回目はスタンプ(印鑑)が一致しないと。三回目は文字の大きさが……」


 なんだそれ、嫌がらせかよ、と思う横でマサキが頷いた。

「なるほど。それは仕方がない」


「仕方ないの?! 普通に嫌がらせじゃないか?!」


「いえ。そういうものかと。俺の父親は『システムは正確に運用されるべき』が口癖で」


 と、マサキがレヴィの資料を取り上げて確認する。


「あ、えっ、これ、紙なんだ? 資料って……」


 レヴィとマサキが不思議そうな顔をする。マサキが、先に口を開いた。


「上の階層では、紙ですね。安定保存性が高い」


「……偉い人は、だいたい上に住んでるんですよ。ここは、下層と中間層」


 へえ、と驚いた。そっか、上にまだあるんだ。

 ということは、マサキは超エリートの家庭の息子ってことか。意外──でもないな。なんとなくだけど。


「我が家の家訓は『少しの許容が、惰性からの破綻に繋がる(A little leniency can snowball into collapse through inertia.)』ですから」


 それがマサキの四面四角さを形作って居るのだろうか。

 完璧に、理論的に、精密に。そうでなければならない、と。


「そう、ですね……。ここ、推薦規定数に満ちないとは? まずはそこから攻めましょう」


 でも、柔軟だ。

 偉そうだけど、偉ぶって人に当たる訳じゃない。俺みたいな新参者からでも、意見はフラットに聞く。

 いいやつ、なんだよな……。

 

 マサキ監修で、レヴィの通したい申請資料を完璧に作り上げる。

 以前、俺がマサキにやったのと逆バージョンだな、と言えばマサキは微妙な顔をして鼻をこすった。


「定型書式は、手順と規定さえ間違わなければ通るものなので」


 その言い方から、ペーパー試験だとかのテスト、無茶苦茶成績良かったんだろうな、と思う。

 それがなんでこんな立方体モンスター算出機に仕上がったんだよ。


「まずは外縁部の一箇所だけでも、正規の教育施設モデルケースとして認定してもらえれば」──要望書を読み上げ、「これなら確実に通ります」というマサキの絶対保証にレヴィが心底ほっとしたように笑う。


「ありがとうございます、マサキさん! メモリさん!」

 本当に、心の底から嬉しそうな笑顔に、こちらまでほっこりとしてしまった。



コグニスフィア情報交換板★その328


1 :名無しさん@コグニスフィア:

ソータGM外縁部視察って終わった?


2 :名無しさん@コグニスフィア:

今回は予定通りぽい

最近はもうほぼ支援スタッフの役目だと思ってた。


3 :名無しさん@コグニスフィア:

>>2

あそこのエリアの害獣、相当やばかったらしい


4 :名無しさん@コグニスフィア:

>>2

『黄金のソータ』戻って来たって噂になるから控えてたんだろ

昔は、そいつが来るとこは飯が食えるって噂だった


5 :名無しさん@コグニスフィア:

>>4

ソータGM、昔は外縁部に居たんだよな?


6 :名無しさん@コグニスフィア:

昔、外縁で会ったことあるよ

今思えばあれ炊き出し見張ってたんだろうな

印象全然違う


7 :名無しさん@コグニスフィア:

そういやアサハの配給めっちゃ美味しいらしいよ


8 :名無しさん@コグニスフィア:

>>7

アサハGMって料理も上手いよね

流石実家農家……食材めっちゃ良さそう


9 :名無しさん@コグニスフィア:

ラングランの生き残り、まだ他にいるって噂あるけど

今ならもう出てきても大丈夫なのにな


10 :名無しさん@コグニスフィア:

>>9

居るにしても、むしろ今更言えるかって話じゃね

多分もう別名で暮らしてる。そっとしとこうぜ


11 :名無しさん@コグニスフィア:

昔って酷かったよな

「水を奪いに来る」とか「残党が○し合い」とか

完全なデマだったのに、みんな信じてた


12 :名無しさん@コグニスフィア:

>>11

あれほんと怖かった

ラングラン出身ってだけで居たらヤバいみたいな

今思えばただの集団ヒステリーだったけど


13 :名無しさん@コグニスフィア:

ソータGMがラングラン出身って公表してから

そういう噂一気に収まったよな


14 :名無しさん@コグニスフィア:

>>13

あれって相当勇気いったと思うわ

今もその話題荒れるしな


15 :名無しさん@コグニスフィア:

>>7-8

アサハGMの配給、ガチで美味しいらしいって噂

取り合いになるからあんま言うなって言われた


16 :名無しさん@コグニスフィア:

>>13

あれ黄金のソータがラングラン出身って噂が出てからじゃね?

ソータGMになったのもっと後だろ


17 :名無しさん@コグニスフィア:

>>13

タイセイとバトッてた時代無茶苦茶面白かった

見出したタイセイマジ神眼


18 :名無しさん@コグニスフィア

ソータGMいつ戻ってくんの?

バトルエリアのショー見たいんだけど


19 :名無しさん@コグニスフィア

>>11-12

噂話は程々に。

デマ情報の拡散やめような


20 :名無しさん@コグニスフィア

外縁部の害獣退治次第だろ

あそこマジでやばいの湧くし


21 :名無しさん@コグニスフィア

昔を知ってる人間からすりゃ

今は天国みたいなもんだよ

配給の味とか気にしてられる時点でアレ


22 :名無しさん@コグニスフィア

>>17

本当は黄金のソータとも別人って噂あるよな


21 :名無しさん@コグニスフィア

レヴィGMの居ないテーブルエリア(;▽;)

は゛や゛く゛か゛え゛っ゛て゛き゛て゛ェ゛ェ゛ェ゛


22 :名無しさん@コグニスフィア

>>21

ここにも患者が…合掌


23 :名無しさん@コグニスフィア

>>22

猫の居ない猫カフェみたいなもんだしな


24 :名無しさん@コグニスフィア

>>23

通報した


25 :名無しさん@コグニスフィア

>>24

いやこれは許してやれよwww

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『コグニション・コード』- 猫耳GMと蒼光の観測者 - 蒼灯一二三 @Aot_Hifumi

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