5


りゅうくん、なん…で…?」

「なんでバラすの…?」

 私は怒りを交えながら尋ねる。


「その方が戦いやすいだろ?」

「なぁ?」


「あかり、幻滅したよね?」

「それでも助けるから!!」

 美青みおちゃんは涙をにじませながら叫ぶと、立ち向かおうとする。


 グイッ!

 私は美青みおちゃんの右腕を掴んで止めた。


雪乃ゆきの!? なんで止めるのよ!?」


「ここで戦ったらあかりちゃんだけじゃなくて」

「先生や高校のみんなにも美青みおちゃんが暴走族の姫だってバレちゃう!」

「そんなの絶対にだめ!!」


「退学になったって構わない!」

「そもそも高校行く気なかったんだから!!」


「だったとしても、私は美青みおちゃんと、これからも高校生活送りたいよ!!」


雪乃ゆきの、ありがと」

 美青みおちゃんは微笑むと、バッ! と私の手を振り払う。


 あっ……。


りゅう――――!!」

 美青みおちゃんは一直線に駆け、殴りに行く。


「おい、お前ら、やれ」

 りゅうくんがケツ持ちに命令すると、3人が前に出て来て、美青みおちゃんの行手を阻む。


 美青みおちゃんは突きや美しい回し蹴りで3人をあっという間に倒す。


「お、なかなかやるな」

「さすが俺の顔に傷つけた姫だけのことはある」

「仕方ねぇ、よくあずさ、やれ」

 りゅうくんが名前を呼ぶと、2人が前に出て来て激しい殴り合いになるも地面に倒される。


「まだまだぁ!」

 美青みおちゃんが叫び起き上がると、


 あずさくんは迷惑そうな顔をし、

「うるせぇな」


 美青みおちゃんを羽交い絞めにした。


 美青みおちゃんは静かになり、地面に倒れる。


美青みおおっ、いやぁっ!!」

 あかりちゃんが悲鳴を上げる。


 どうしよう…。

 そらくん達を呼びに行きたいけど、逃がしてくれるはずがない。


 美青みおちゃんを先に行かせて、そらくん達を呼んでくるべきだった。

 だけど後悔したって遅い。


 自分しか助けられないんだ。

 ならもう、やるしかない!



「あかりちゃんは私が絶対助ける!」



 私は向かっていくもよくくんに軽く突き飛ばされる。


「きゃっ!」


「ゆきのん!!」

 あかりちゃんが叫ぶ。


「総長の姫なんだからさ、大人しくしてな?」

 よくくんがそう言うと、


「総長の姫!?」

 あかりちゃんが驚きの声を上げると私の顔が青ざめる。


 あ……。

 私も知られちゃった……。

 それでもいい。


「へぇ、まだ立ち上がるんだ?」


「ゆきのん、もういい! 逃げて!!」

 よくくんに続けて、あかりちゃんが叫ぶ。


「あの時は付き人として見てたけどさ」

「前もそうやって助けようとしたね」


 よくくんが笑うと、ズキン!


「う…」

 ガラスが割れるような頭痛に襲われ倒れかけると、

 りゅうくんはあずさくんにあかりちゃんを預け、

 私の右腕を掴んで支える。


「離し…」


「辛いだろ。眠っとけ」

 りゅうくんがそう言うと、意識を失いそうになるも私は耐える。


「私は…眠らない」

「あかりちゃんは…私が…助けるんだ」



雪乃ゆきの!」



 そらくんが耀ようくん、しゅんくんを連れて走って来た。


 あ…来てくれた……。


 りゅうくんは私を扉の前に座らせる。


「姫、ここで見てろ」

「てめぇら、行くぞ!」


 殴り合いの喧嘩が始まった。


 しゅんくんは下っ端達を殴り飛ばす。

 下っ端達は次々に倒れていく。


 耀ようくんはよくくんと殴り合い、

 そらくんはりゅうくんと激しく殴り合う。


 ドスッ。

 鈍い音が響いた。


 ズキン!


「ッ…」


 ガラスが割れたような痛みに襲われ、


 ドクン、ドクン、と胸がざわめき、


 中2の夏の喧嘩の映像がチラつく。


 逃げたい。


 逃げ出してしまいたい。

 だけど、あかりちゃんとそらくん達置いて一人だけ逃げるなんて出来ないよ。


 やめて、お願い。

 もう、やめて――――!


 ズキン!

 茨が物凄く暴れたような強烈な痛みを感じる。



「あぁっ…!」



 私は両手を頭に触れながら狂い叫ぶ。


「ゆきのん!?」


雪乃ゆきの!」


 あかりちゃんとそらくんが同時に叫ぶ。


「やめだ!」

 りゅうくんが大声で叫ぶと全員の動きがぴたりと止まる。


 止まっ…た……?


 りゅうくんが私の元に歩いて来た。


 頭、優しく撫でられ……。


「姫、苦しませたな」


「コラー! 待てー!」

 阿久津あくつ先生の怒鳴り声が響き渡る。


「てめぇら、おとり役が引き付けてる間に帰るぞ!」

 りゅうくん達は駆け去っていく。


 行っちゃった…。

 良かった……。


雪乃ゆきの、大丈夫か?」

 そらくんが心配するも、

 私は笑う。


「頭痛は治った。助けてくれてありがとう」


 ほんとはまだガンガンするけど。


「ゆきのん!」

 解放されたあかりちゃんが駆けて来て、私をぎゅっと抱き締めた。


「無事で良かった!」

「怖かった、怖かったよぉ…」

 あかりちゃんは泣きじゃくる。


「うん、あかりちゃんも無事で良かった」


耀ようしゅん、あかり達を保健室に」


「分かった」


「おう」


 あかりちゃんは耀ようくんに、

 しゅんくんに名前を呼ばれ意識が戻った美青みおちゃんは、そのまま支えられながら保健室に向かう。


 ふたりきりになっちゃった……。


 そらくんは、はぁ、と息を吐く。

「嘘付きやがって」


「え?」


「頭痛ずっと我慢してただろ?」


「…あはは」

「バレバレだね…」

「まだ動けなそうにないから出来れば飲み物欲しい…」


「分かった」

 そらくんは私の頭を優しくぽんぽんすると、飲み物を買いに行く。


 あ……。

 やばい、ガンガンする。


 どうしよ、一人になったらなんか急に気持ち悪く…。


 ズキン!

 ガラスが割れるような痛みに襲われる。


「う…ごほっ…」

 私は右手を口に押さえて吐く。


「ハァ、ハァ、ハァ…」


 良かった、一人の時で…。

 こんなとこ好きな人に見られたくないもん…。

 そらくんが戻って来るまで待ちたいな…。

 だけど……、


 も、だめ…。


雪乃ゆきの!」

 そらくんが駆けて来る。


 そらくんが缶ジュースを投げ捨てしゃがむと、

 私は胸の中で倒れた。


「大丈夫か!?」


そらく…あかりちゃん達のこと……」


「何言ってんだ!? 自分の心配しろよ」


「そう…だね…」


 私は転がる缶ジュースを見る。

「あ…グレープジュース…?」


「あぁ。雪乃ゆきの、好きだろ?」


「うん……」


 ズキン!

 茨が荒れ狂って暴れたような今までで一番の痛みに襲われる。


「あぁっ!」


雪乃ゆきの!」


そらく…怖い…」

「怖いよ…」



「宙くん…お願い…眠らせ…ないで…」



 そらくんが口を開く。



雪乃ゆきの、大丈夫だ」

「俺がついてる」

「だから…」

「今は眠れ」



 なんで?

 なんで…そんなこと言うの…?


 いつもの空き教室で言うみたいに、

 ミスターコンで歌ったみたいに、


 眠らせないって言ってよ……。


 私は一筋の涙を流すと、意識を失った。

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2024年12月18日 21:00
2024年12月18日 21:00
2024年12月18日 21:00

最強総長は姫を眠らせない。⚘ 空野瑠理子 @sorano_ruriko

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