secret sleep7⚘眠らせないって言ってよ。

1


 今日も髪、ボサボサ……。


 夏休みが終わり、

 9月5日の朝。私は洗面台の鏡で自分の姿を確認していた。


 鏡に映る制服姿の私。


 そらくんと花火を見た日から、

 まるで頭の中で茨に縛られた中2の私が目覚めようとして暴れて、ガラスが割れていくような痛みを感じる。


 だけど頭痛だけで映像も声も流れなくて…。

 私の見たくない気持ちがシンクロしてるのかも…。


 私はシルバーのネックレスをぎゅっと掴む。


 お願い、このまま眠ってて。

 目覚めないで。

 私から眠れない日々を奪わないで。



 うぅ、眠い……。


 その日の6限。私は教壇に置かれたクジの箱の前でボーっとしていた。


花城はなしろ、何やってる」

「席替え後、文化祭の出し物も決めるんだ。早く引きなさい」

 教壇に立つ望月もちづき先生に言われ、ハッと目がえる。


 そうだった、文化祭…!


 私はクジの箱に手を突っ込んで最後のクジを引き、席に戻っていく。


「では開封して席移動!」


 私はクジをピラッと開封する。


 あ、廊下側の一番後ろの席だ…。


 ほわほわのお花のオーラが私を優しく包み込む。


 また窓側で嬉しい。


 ガタッ。

 私は椅子から立ち上がると鞄を右肩にかけ、移動する。


 そして新しい席の机に鞄を置くと。


雪乃ゆきの、同じ列だね」

 廊下側の一番前の席に立つ美青みおちゃんが声をかけてきた。


「あ、うん」


「隣、しゅんとかありえないけど」

 美青みおちゃんは、めちゃくちゃ嫌そうな顔を浮かべながら言う。


「はぁ!?」

 しゅんくんが隣で叫び返す。


 え、しゅんくん、美青みおちゃんの隣!?


 驚いていると、鞄を右肩にかけたあかりちゃんが私の前まで歩いて来る。


「あ、ゆきのん、後ろ!?」


「え、え、あかりちゃん、前!?」


「やったぁ~」

 あかりちゃんが、はしゃぎながら喜ぶと私も微笑む。


「あれ、隣あかり?」


「!!」

 あかりちゃんは両目を見開く。


 耀ようくん、あかりちゃんの隣だ!!


「あかり、よろしく」


「う、うん、よろしく」

 あかりちゃんは林檎のように顔を赤らめながら言う。


 私の顔が、ぱあっと明るくなる。


 やったぁ。

 良かったね、あかりちゃん。


 ドサッ。

 誰かが隣の机に鞄を置いた。

 私は振り向く。


「え」


「えってなんだよ」


 !?!?!?!?


 頭がパニックになる。


 そらくん、隣!?!?


「お、そら、後ろ?」

「前後逆転したね」

 耀ようくんが、にこっと笑うと、


 そらくんは無視して隣の席に座る。


「ボサッと立ってねぇでお前も座れよ」


「あ、うん」

 私も恐る恐る隣の席に座った。


 しゅんくんと美青みおちゃんは、

 そらくんとあかりちゃんが座ってた廊下側から2列の一番前の席。


 その席から縦に4つ空けて、


 耀ようくん、あかりちゃん、


 そらくん、私(2列の一番後ろの席)。


 こんな奇跡ミラクルが起きるなんて!!


 今日からますます、眠れそうにない。


「全員、席移動したな?」

「では実行委員」

 望月もちづき先生が文化祭実行委員にゆだね、教壇から降り、両手を組んで窓の前に見守るように立つ。


 ヤンキー男女が前に出て来て教壇に上がると、

 ヤンキー男子は教卓、ヤンキー女子は黒板の前に立った。


「今から出し物を決めたいと思いまーす」

「意見のある人、手上げて!」

 ヤンキー男子が軽く言うと次々に手が上がり、ヤンキー女子は意見を黒板に白チョークで書いていく。


「多数決を取りまーす」

「お化け屋敷! はい、10人」


「男女逆転シンデレラ! はい、6人」


「眠り姫カフェ! はい、16人」


「よって1-Aの出し物は眠り姫カフェに決定~!」

 ヤンキー男子が明るく言うと、ワアッと歓声が上がる。


 眠り姫カフェかぁ、可愛い。

 わくわくする。


「そんで今年はミスターコンテスト」

「略してミスターコンが開催されま~す」


「キャー! キター!」

 女子達が嬉しそうに叫ぶ。


「あかりちゃん、ミスターコンって?」

 私は後ろの席から話しかける。


「あ~、ゆきのん知らない?」

「ミスターコンはね、全男子生徒の中からイケメンナンバー1を決めるコンテストのことだよ~」


 イケメンナンバー1!?!?


「この中から2名出さないといけなくて誰がいいっすか?」


「そんなのそらくんと」

 ツインちゃんが言うと、


耀ようくんに決まってんでしょ!」

 続けて級長がビシッとヤンキー男子に言う。


「だよねー!」

 女子達は賛成する。


「そう言われてますが、お2人いいっすか~?」


「俺はいいよ。そらは?」

 耀ようくんが振り向きながら尋ねると、


「俺はパスで」

 そらくんは机に右肘を立てながら言う。


「えー!? なんでー!?」

 女子の不満の声が上がった。


 そらくん出ないんだ…。


 普通の総長は、


 文化祭? ミスターコン?

 そんな学校行事出る訳ねぇだろ。

 つーか、学校なんて行ってられっかよ。

 真夜中、バイクで暴走。

 パラパラァ~。


 だもんね。


 総長のそらくんが普通に高校通ってて、

 学校行事一緒に出来ること自体が奇跡ミラクルな訳で。


 それに総長って忙しいと思うし…。


 だけど眠り姫カフェだけじゃなくて、

 ミスターコンに出るそらくんも見てみたかったな…。

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