5


「あー終わっちゃった」

そら達、かっこよかったねー」


「だね」

 あかりちゃんと美青みおが言う。


 副会長が机に置かれたマイクに話しかける。

「プログラム11番も凄かったですねー」


 戻って来た生徒会長がマイクを外し、

「続いて、プログラム12番、対抗リレーでっす!」

 と叫んだ。


「うおー!」

「ついにキター!」

 男女共に盛り上がる。


「大注目のアンカーはやはり、そらくんでしょうか!?」

 副会長がマイクに向かって尋ねる。


「そうっすねー」

「でも強豪ばかりなんで全団頑張って欲しいですねー」

 生徒会長が立ったままマイクで話す。


 う…クジで決まったものの、走るの緊張する。

 それに暑いし、けっこう注目浴びるしで恥ずかしいな…。


 パァンッ! と銃声が鳴り、白団、赤団、黄団、青団、紫団の第一走者が一斉に走り出した。


 生徒会長が驚く。

「おお!?」

「紫団、速い速い!」


 紫団の第一走者から第二走者にバトンが渡り、

 しばらくして私にバトンが渡った。


「ゆきのん!」

雪乃ゆきの! 頑張れ!」

 あかりちゃん、美青みおちゃんの声援が響く。


 このままそらくんにバトンを渡す。

 ぜったい!


 そう思った瞬間、ズキンッ。

 頭の中のいばらが暴れ出したかのような痛みに襲われた。


「ッ…」


 痛くて前がよく見えない。


 しゅんくんが異変に気づく。

「おい、雪乃ゆきの、おかしくないか?」


 耀ようくんは心配そうな顔を浮かべる。

「どうしたんだろうね」


「おおっと、花城はなしろさんに何やらハプニングが起きた模様だ!」

「白団、赤団、黄団、青団、抜かしていくぞ!」

 生徒会長がマイクで解説する中、


 中2の夏にそらくんに手を引かれて逃げている映像が頭の中で流れた。


 なんで今、思い出すの?

 やめて、もう流れないで!!


 ふっ…。

 意識がなくなりかけた時、



雪乃ゆきの! 俺を見ろ!!」



 そらくんの叫び声が頭の中に響く。


 私はハッとし、意識がはっきりする。


 まるで背中に翼が生えたかのように走るスピードが上がっていく。


 私はバトンを持った右手を伸ばす。


 パシッ。


 あ、そらくんにバトン、渡った。


雪乃ゆきの、世界は違わねぇ」

「同じ世界で、ちゃんと繋がってる」


 そらくんは全力で走っていく。


 やっぱり、昨日の聞いてたんだ……。


 両目から大粒の涙がこぼれては光る。


 生徒会長は両目を見開く。

「おーっと!? 物凄い追い上げだー!」


 ねぇ、そらくん。

 背中に翼が見えるよ。


 そらくんはゴールテープを切った。


「一体何が起こったんでしょう!?」



「紫団、逆転で一着だー!」



 生徒会長がマイクで熱狂すると、


「すげえ!」

「キャー! やったー!」

 男女共に歓声が上がる。


 そらくん、凄い。

 やった…良かった……。


 私は腕で涙を拭い、1年A組の席に戻る。


「ゆきのん!」

雪乃ゆきの! 大丈夫!?」

 あかりちゃんと美青みおちゃんに尋ねられた。


「うん、大丈夫。ちょっと顔洗ってくる」

 私は体操着入れを持ってテニス場の横の水道まで歩いて行く。


 そして、

 バシャッ。

 水道の蛇口をひねり、顔を洗う。


 熱いな、ほんと。

 あんなかっこいいそらくん見たせいだ。


「君が雪乃ゆきの?」


 私は蛇口を閉めて、振り返る。

 白団の頭の悪そうなヤンキー男子3人が立っていた。


 え、3年の先輩達?


「あのまま倒れてくれれば紫団一着にならずに済んだのによ」

「ほんと空気読めよな」

 ピンク色に髪を染めたリーダー格の先輩に右腕を強く掴まれる。


「痛っ」


「俺の姫に触るんじゃねぇよ」


 紺色のキャップ。

 綺麗な青髪。

 整った顔立ち、かっこいい筋肉。


 Tシャツにジーパン姿の男子が先輩の手を振りほどく。


 え……。

 りゅうくん!?!?


「なんだてめぇ!」

 リーダー格の先輩が叫ぶと、


「あぁ?」

 りゅうくんが一言で場を凍らせる。


「コイツ、危ねぇ!」

「行こうぜ!」

 先輩達は慌てて逃げていく。


 なんでりゅうくんが!?


 私はハッとする。


 もしかしてまた喧嘩しに来たんじゃ…。


「助けてくれてありがとう」


「礼はいい」


「あ、あの、そらくん達と喧嘩はしないで」


「今日はしねぇよ」

「可愛いお前を見に来ただけだ」


 か、可愛い!?

 私が!?

 それはよく分からないけど、見に来ただけなんだ。

 そっか、良かった…。


「あの、これお返しします」

 私は体操着入れから白のパーカーを取り出して渡す。


 りゅうくんは受け取る。


りゅうくん他校生なのに、どうやって高校に入ったの?」


「あぁ、適当にここの生徒会長の弟だって副会長に言ったら」

「あら、そうなの? かっこいいから許す♡」

「って成りすましで入れた」


 副会長、ゆるすぎ…………。


「まぁ、弟なのは本当だけどな、兄いるし」


「え」

 私は驚く。


「お兄さんいるんですか?」


「あぁ、よく兄のバイクのケツに乗っけてもらってた」

「お前も会ったことある」


「え?」


 りゅうくんはジーパンのポケットからスマホを取り出すと、お兄さんの制服姿の写メを見せてきた。


 ズキンッ。


 また頭痛が…。


 頭に映像が浮かんでくる……。


 外に跳ねた白のセミロング。

 6代目総長氷浦ひうらと背中に書かれた青の字を金色で囲った白の特攻服。


『俺は白坂聖しろさかせい


 声まで響いて……。


「う…」

 前に倒れ掛かると、りゅうくんが私の体を支えた。


 え、お姫様抱っこされて……。


りゅうく…」


「黙ってろ」


 りゅうくんはそのまま歩き出す。


 しばらくして保健室に辿り着くと、りゅうくんは扉を開ける。


「先生、いねぇな」

 りゅうくんはベットまで歩いて行き、私を優しく寝かせ、布団をかけた。


「写メ見せねぇ方が良かったな」


「いえ、少し思い出せて良かったです」

白坂聖しろさかせいさんって…」


「兄の名前だ」


氷浦ひうらの6代目総長だったんですか?」


「あぁ。俺とお前が中2の時、兄は高2で氷浦ひうらの6代目総長だった」

「ナンバー2、3の高1の仲間連れて強い族を倒し続けてた」

「だが兄が高3になって卒業する時、次の総長を決めなきゃいけなくなって」

「弟の俺が総長になるべき派とナンバー2が総長になるべき派と分かれて内乱になった」

「そん時、一緒に付き人やってた同級生のよくあずさと共に戦って俺が勝って、よくはナンバー2、あずさはナンバー3になり、今俺が7代目総長って訳だ」


「そうだったんですね…」


「とにかく今は休め」

 りゅうくんが私の頭を撫でる。


 パタパタッ。

 駆けてくる足音が聞こえた。


雪乃ゆきの!」

 紫のTシャツ姿のそらくんが必死に叫ぶ。


「よくここが分かったな」


「お前が雪乃ゆきのを連れてくのが見えたんだよ」


 りゅうくんはそらくんの右肩にぽんっ、と手を乗せる。

「…お前を嫌う先輩達に絡まれてたぞ」

「…姫を一人にするなよ」

「…だからお前は俺には勝てない」

 耳元で嫌味を囁くと、


「姫、またな」

 私にそう言って保健室を出て行く。


「大丈夫か?」


「うん」

 私は起き上がる。


「おい、まだ寝てろ」


そらくん、見て」


 しゅるっ。

 私は紫色のリボンハチマキをほどき、

 髪を後ろでポニーテールに結ぶ。



「私は大丈夫」



 そらくんに笑いかけると、


「俺が大丈夫じゃねぇ」


 強く抱き締められた。


 あ、そらくんの上半身が当たって…。


 過去を思い出す度、そらくんが遠くなる。


 私はりゅうくんの姫になると約束していて、

 だからこんなのダメなのに。

 分かってるのに。


 私はそらくんに両腕をぎゅっと回す。


 私、離れたくない。

 叶うことならずっと、このままでいたい。



「改めまして、紫団見事優勝して応援団賞にも選ばれました~!」

 体育祭の表彰式後。1年A組の前扉から入って来た級長が賞状を見せた。


「紫団、よくやった!!」

「最強!!」

 男女共、興奮気味に拍手する。


 えぇ!?


 保健室から戻って来ていた私は驚く。


 焼けた手と膝の痛み、吹っ飛んじゃったよ。


 望月もちづき先生が級長に追いつく。

「こら、勝手に賞状持ってくんじゃない」


「えー、もっちー、いいじゃん」

「貼っちゃお」

 級長が黒板に紫色の丸いマグネット2つを使って賞状を貼る。


 すると男女共に黒板に集まってきて、チョークで落書きを始めた。


「全員座れ。帰りのHRホームルーム…」

 楽しそうな生徒達の顔を見た望月もちづき先生は、はぁ、とため息をつく。

「今日だけ多めにみよう」


 男女共に笑顔がこぼれる。

「よっしゃ!」

「完成!」



『最強紫団☆

 1-A、みんな大すき♡

 そらくんしか勝たん!!!!!』



 黒板に貼られた賞状と落書きが輝く。


 私は微笑む。



 そらくんと再会してからキラキラばっかりだ。

 ずっと続くといいな。


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