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「ゆきのん、髪結んであげよっか?」

 5月30日。校庭であかりちゃんが尋ねてきた。


 今日は月籠つきかご高校の体育祭。

 私のクラスはクジ引きで紫団になり、全員ラメが入った紫色のTシャツにズボンを履いている。


「あ、このままで」


「でも暑くない?」


そらくんがこのままの髪の方がいいって、ブサイクだから」


 あかりちゃんが驚く。

「えー? そらそんなこと言ったの!?」


「ありえない!」

 隣で見ていた美青みおちゃんがブチ切れて私の髪を一つにまとめて掴む。


「あ」

 あかりちゃんと美青みおちゃんは同時に声を上げ、何かを察した。


「え?」


「確かにいつもの方がいいかな」

 美青みおちゃんがそう言うと、


「だ、だね」

 あかりちゃんも同意する。


「あはは、やっぱり似合わないよね」


「んー、逆に目立っていじめられるかも」

 美青みおちゃんにそう言われ、


「そっか」

 私はへこむ。


「…ヤバイヤバイ」

 あかりちゃんが小声で言うと、


「…うん、美女すぎ」

 美青みおちゃんが小声で返す。


「ゆきのん、髪はそのままでハチマキリボンにするね」


 ハチマキリボン!?


「あ、うん」


「はい、出来た~」

「私達とおそろいだよ~」

「ゆきのん、かわいい~」


 ハチマキリボンは可愛いけど、似合ってないだろうなぁ…。


「ねー、アレ見て。背中ヤバくない?」

 女子達の声が聞こえて来た。


 な、なんだろう?


「天使って書いてある笑」

「どう見ても悪魔なのにね笑」


 天使…………。


「天使って?」

 あかりちゃんと美青みおちゃんに聞くと、あかりちゃんの顔がボッ! と真っ赤になる。


「あー、雪乃ゆきのは知らなくていい」

 美青みおちゃんにそう言われ、考えるのをやめた。


 それから間もなくして開会式が始まり、

 白、赤、黄、青、紫団の3年の応援団長が旗を持ちながら宣誓し、体育祭の競技が始まった。


「続きまして、プログラム3番100メートル走です」

「可愛くて天使♡な海原あかりちゃんの登場でっす!」

 白いテントの中、黒と金に髪を染めた生徒会長が椅子に座りながら机に置かれたマイクに向かって話す。


「おー!」

 男子達は盛り上がる。


「あかり!」

「あかりちゃん、頑張れ!」

 美青みおちゃんと私が声援を送ると、パァンッ! と銃声が響く。


 あかりちゃんは全力で走り、ゴールテープを切った。


「やったぁ、1着~」

 1番の旗を貰うと、あかりちゃんは私達にVサインをする。


「出たー! 満面の笑みだー!」

 生徒会長が机に置かれたマイクに大声で叫ぶ。


 男子達は惚れ惚れする。

「クソ可愛い! あー、付き合いてぇ」


 競技が終わるとあかりちゃんは1年A組の席に戻って来た。


「あかり、よくやったね」

 耀ようくんが褒めると、


 あかりちゃんは照れながら笑う。

「あ、あ、ありがと」


「プログラム4、5番も盛り上がりましたねー」

 生徒会長の隣に座る茶髪ロングの綺麗な女副会長が机に置かれたマイクに向かって話す。


「さて、続いてプログラム6番、借り物競走です」

「ナンバー2のモテ男子、霧生耀きりゅうようくんは何のお題を引くのか!?」

 マイクから生徒会長の声が響き渡ると、耀ようくんは複雑な笑みを浮かべる。


 耀ようくん、ナンバー2のモテ男子なんだ…。


「おっと、1年A組の席に向かっていくぞ!?」


 え!?


雪乃ゆきのちゃん、来て」


 えぇ!?

 私!?

 あかりちゃん、耀ようくんのこと好きなのに…。

 ど、どうしよう…。


「…雪乃ゆきの、行って。私は大丈夫」

 あかりちゃんがコソッと言う。


「…わ、分かった」


 私は耀ようくんに手を繋がれ、走っていく。


「ギャー!」


「女子達の悲鳴が上がったー!」

 マイクから生徒会長の大声が響き渡る。


 私達はゴールテープを1番に切った。


「雪乃ちゃん、やったね」


「うん。でもなんで私だったの…?」


「ボサ髪の子って書いてあったから」


「なんだ、そっか…」

 私が、ほっ、と安心する中、


 耀ようくんはそらくんに笑いかけると、

 そらくんは無視をする。


「プログラム7、8番も最高でしたねー」

 副会長の声がマイクから響く。


「続いて、え? もう午前中最後の種目!?」

 生徒会長がマイクに向かって驚きの声を出すと、


「嘘ぉ~」

 女子達が不満な声を上げる。


「プログラム9番、障害物競走です!」

「ネットを潜り抜けたりハードルを飛び越えたり等がある中」

「一番最後の障害物はなんと女子!」

 生徒会長の発言に女子達はギロリと睨む。


「女子からの視線が怖いですが、女子と二人三脚でゴールしなければなりません!」


「これは大変ですねー笑」

 隣に座る副会長が返す。


「障害物競走には、宇宙を超えるイケメン、黒沢宙くろさわそらくんとちょー美人な桜木美青さくらぎみおちゃんが登場しまっす!」

 生徒会長が話し終えると、


「うおー!」

「キャー!」

 男女共に盛り上がる。


そら! 頑張れよ!」

 しゅんくんが声援を送ると、


 パァンッ! と銃声が鳴り、そらくんが走り出す。


「キャー!」

そらくん、速い! かっこいい!!」

 女子達の歓声が上がる。


 生徒会長がバンッ! と机を叩く。

「おおっと、白団、赤団、黄団、青団も追いついた!?」

「しかーし、障害物の女子達が立ち塞がります!」

「…って、だから視線怖いって笑」


 隣の副会長が苦笑いする。

「わー、結ぶの苦戦してますねー」


「おーっと、黄団、女子泣かせたぞ!?」

「拒否られたかー!?」

 マイクから生徒会長の声がキィィンと響く。


「あっ、紫団、そらくん、結び終わったようです!」

 隣の副会長が声を上げると、


そら!」

美青みおちゃん!」

「頑張れー!」

 耀ようくん、私、あかりちゃんが声援を送る。


 そらくんと美青みおちゃんは二人三脚でゴールテープを切った。


 生徒会長は立ち上がる。



「やはり、紫は強かった!」

「1着だー!」



「やったぁ~」

「やったね」

 あかりちゃんと私は抱き合う。


「ヒュー」

「美男美女! もう付き合っちゃえよ!」

 男子達が冷やかす。


 私は複雑な顔をする。


 やっぱり世界が違うんだ。



 そして午前中の競技は全て終わり、

 私達は1年A組の教室に戻って、サンドイッチを食べる。


「あれ? ゆきのん、食欲ない?」

 あかりちゃんが尋ねてきた。


「ううん、大丈夫」


 そらくんに見られてる気がする。

 なんだろう?


雪乃ゆきの、食べれるだけ食べなよ」

 美青みおちゃんがそう言うと、


「うん」

 私は短く答える。


「じゃあ、俺達着替えてくる」

 しゅんくんはそう言うと、そらくんと耀ようくんと教室を出て行く。


そら達の応援団、楽しみだねー」

 あかりちゃんが、ふわりと笑う。



「えー、続きまして、紫応援団の登場です」

 白のテントの中、無表情の望月もちづき先生がマイクで言った。


 男子達が騒ぐ。

「もっちー棒読み~、やる気ねぇー笑」


「今、眠りから目覚める」

「三千世界」

 望月もちづき先生がマイクで言うと、

 生徒会長が紫団の旗をバサッと広げる。


 なびく紫のハチマキ。

 両衿に黒の縦ラインが入った紫色のロング法被はっぴ

 黒のボトム。


 そして法被はっぴから少し見えるそらくん、耀ようくん、しゅんくんの鍛えられた美しい上半身。


「かっけー!」

「キャー!」

 男女共に歓声が上がる。


 そらくん達は華麗に踊り出す。


 あ、そらくんバク転して…。


 私と目が合う。


 バサッ。

 そらくんは法被はっぴを脱ぐ。


「キャー!」

 法被はっぴで隠れていた上半身が全てあらわになり、女子達の何人かは興奮してぶっ倒れる。


 そらくんは、くるりと回ると法被はっぴをかっこよく羽織って笑った。


 くらくらする…。

 そらくん、かっこ良すぎるよ。

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