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 そして5月20日から23日まで中間テストが行われ……、


「テスト全員返したな」

 5月28日の6限目。1年A組の教壇で阿久津あくつ先生が言った。


 しぃぃん、と室内が静まり返る。


「25点以下は赤点となる」

「ではワーストを発表する」


 ドキン、ドキン。


 ついに最後の教科、保健体育のテストが……。

 今までの教科はぜんぶ赤点から間逃れたけど、大丈夫…だよね?


「ワーストは黒沢くろさわ、26点」


「え? 以下ってことは?」

 男子の一人が尋ねると、


「セーフってことだよ!」

「キャー! さっすがそらくん!」

 女子達の歓声が上がる。


「うおー、体育祭だー!」

 男子達は雄叫びを上げた。


「チッ」

 阿久津あくつ先生は嫌な顔をする。


そら、もっと取れたよね?」

「他のみんなが名前呼ばれるの避ける為にわざとやったでしょ?」

 後ろの席から、にこっと笑いながら耀ようくんが尋ねる。


「は?」

「そんな訳ねぇだろ」

 そらくんは机に伏せ寝しながら答えた。



「あっつ~、午前中の体育祭リハ終わったね~」

 翌日の昼前。ピンクグレーのジャージを着たあかりちゃんが言った。


 私と美青みおちゃんも同じ格好をしている。


「あかり、100メートル走、ばっちりじゃん」

 美青みおちゃんが声を掛けた。


美青みお、二人三脚の練習出来なかったんだよね?」


「うん、そらがサボッて笑」

そら、応援団とリレーもあるし」

「あー、あかりと同じで一人の種目が良かった。クジで決まったから仕方ないけどね」

「でも大丈夫、前に何度か練習したから」

雪乃ゆきのは午後、そらとリレー頑張って」


「あ、うん」


「それで、あかり、明日告るの?」

 美青みおちゃんが尋ねる。


「え、何いきなり!?」


「あかり、耀ようのこと好きでしょ」

 美青みおちゃんは、さらりと言う。


「え!? バレバレ!?」


「うん」


「あー、うーん、告るのはまだいいかな」

「そういう美青みおはどうなの? そらに言うの?」


「いや、違うから」

 美青みおちゃんは否定する。


「え!? 違うの!?」

「みんな噂してるよ。美青みおそらだって」


「あはは…私、偽者の姫だからさ」


「え? 偽者の姫?」

 あかりちゃんが尋ねる。


「そんなことないよ」

美青みおちゃんは本物の姫だよ」

 私がそう言うと美青みおちゃんは驚く。


「え、え、どういうこと?」

 あかりちゃんはパニックになる。


「あ、姫っていうのは美人って意味だよ」

 私が説明すると、美青みおちゃんが口を開く。


「とにかく今のナシね」


「え、偽者の美人ってこと?」

「なら、間違いだよ。美青みおは美人だよ」


 美青みおちゃんは眉毛を下げて笑う。

「あはは、あかり、ありがと」


「てか、雪乃ゆきのはどうなの? そらに言わないの?」

 美青みおちゃんに聞かれ、驚く。


「え!?」


「バレバレだから」


 私はそらくんのことが好き。

 だけど、りゅうくんの姫になるって約束してて、

 記憶もまだぜんぶ思い出してない。

 そんな状態で告白なんて出来る訳ない。


 私は眉を下げて笑う。


「私はそもそも世界が違うから無理だよ」


 あ、そらくんと目が合って…。


 今のそらくんに聞かれちゃった…?



「ご、午後も体育祭のリハだね」

 昼休み。空き部屋でジャージ姿の私は右膝を立てて隣に座るそらくんに話しかけた。


「あぁ」


 き、気まずい…。

 さっきの聞かれちゃったかもしれないし……。


「本番、髪結ぶのか?」


「あ、うん、暑いし結ぶかも」


「やめとけ」

「あ、うん…」


 ポニーテールは似合わないしね…。



雪乃ゆきの、俺にだけ見せて」



 私は驚く。


 予想外の言葉にドキドキが止まらない。


「わ、分かった」

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