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「え、ここ、そらのバイト先なの!?」

 放課後。カラオケ月猫店の部屋であかりちゃんが声を上げた。


 部屋は明るく暖かな雰囲気が漂っていて、


 ソファーには扉近くから私、あかりちゃん、美青みおちゃん、

 反対側のソファーにそらくん、耀ようくん、しゅんくんが座り、


 テーブルには月猫セット(唐揚げ、ポテト、切ったレモン、ケチャップ、ソフトドリンク)と、

 ソフトドリンクはしゅんくんのメロンソーダ、耀ようくんのコーヒー、

 そらくんのコーラフロート、私のココアフロート、

 あかりちゃんのレモンティー、美青みおちゃんのストレートティーが中央に置かれている。


「うん」

 美青みおちゃんが短く答えると、


「えー、知らなかった。ゆきのんは知ってた?」


「ううん、知らない」


 そらくんがカラオケ店でバイトしてたなんて…。


「もー、幼馴染なんだから教えてくれてもいいのに」

「ゆきのんだって義理の妹なんだし」


「まぁ、ふたりは一般人だからね」

 耀ようくんがそう言うと、


「え、どういう意味?」

 あかりちゃんが聞き返す。


「そのまんまの意味だよ」


「えー?」


 一般人…そっか。


 “世界が違う”ってことかな。


 私達、暴走族に入ってないもんね…。


「あの、そらくん、ここではどんな仕事してるの?」

 私は声をかける。


「調理とホール」


「そっか…」


 私はそらくんのバイト姿を思い浮かべる。


 あぁ、キラキラしてて、かっこいいだろうなぁ。


「お前等、手が止まってんぞ。勉強しに来たんだろ?」

 しゅんくんがそう言うと、

 私以外、お前が言うな、という目で見る。


「は? 何その目、怖ぇえ」


「そういえばさ、受験の時もここでこうやってみんなで勉強したね」

 美青みおちゃんがそう言うと、あかりちゃんが驚く。


「え!? そうなの!?」


 しゅんくんが笑う。

「あぁ。俺と耀ようそらと中2の秋に出会って」

美青みおは中3の春にそらが拾って連れて来て」

「中3の夏にそらが高校行くって分かった時はマジでびびったわ」

「俺と美青みお耀ようは高校行く気なかったのに火つけやがって」

「まぁそのおかげで全員合格出来たんだけどな」


「なんでそんな必死なんだって思ってたら」

雪乃ゆきのちゃんに会う為だったんだね」

 耀ようくんが、にこっと笑うと、


「余計なこと言うんじゃねぇよ」

 そらくんはそう冷たく言う。


 そらくん、そうだったんだ…。

 なんだか恥ずかしいな。


 私はコーラフロートを取って飲む。


「あ、それ、俺の」


 え、よく見たら飲みかけ…。

 これって、か、か、間接キス……。


「え、ご、ごめ…」

 私の顔が、かあっと熱くなる。


 私、ココアフロートだったのに間違えちゃうなんて…。


「…ねぇ、もしかして、ゆきのんってそらのこと好き?」

 あかりちゃんが小声で話しかけてきた。


「…え」

 更に顔が熱くなった。


「…やっぱり~。そうかもってずっと思ってた」


 えぇ!?

 バレバレ!?


「…あ~、どうしよ」


 あかりちゃん、迷ってる?


 あかりちゃんはチラッと美青みおちゃんを見た。


 分からないけど、美青みおちゃんもそらくんのこと……?


「…よし、決めた。内緒で見守るね」


「…え、あ、うん。ありがとう」


「じゃあ私、トイレ行って来る!」

 あかりちゃんはそう言うとソファーから立ち上がる。


 何かを察した美青みおちゃんもソファーから立ち上がった。

「私も」


「俺も行こうかな」


「なんだよ、みんなして。じゃ、俺も」


 あかりちゃん、美青みおちゃん、耀ようくん、しゅんくんは部屋から出て行く。


 え…みんな行っちゃった。


 そらくんとふたりきりに…。


 もしかして、あかりちゃん達、気を遣ってくれたのかな。


「あれから頭痛起きてないか?」


「あ、うん、大丈夫」


 この状況は全く大丈夫じゃないけど…。


「そう」


 ガチャッ。

 部屋の扉が開く。


 え、もうみんな戻ってきた?


「誰かと思えば黒沢くろさわじゃん」


 オレンジ色のロン毛。

 両耳に十字架のピアス。

 着崩した焦げ茶のブレザーに夕陽と王冠のエンブレム。

 赤と青チェックのネクタイ。

 青と紺チェックのズボン。


 え……。

 だ、誰!?



「…全国トップ3の暴走族闇十字やみじゅうじの6代目総長」

「…玉樹嵐たまきあらしか」



 そらくんはボソッと呟く。


 え、全国トップ3の総長!?!?


「まさか、ここで会えるなんてな」

「なんて、嘘だけど」

 あらしくんは中に入ると扉を閉める。


「色々潰してきて」

「偶然、東京に寄ることになったから挨拶しに来てやったよ」


「…あれ? 人がせっかく挨拶しに来てやってんのに無視してお勉強かよ」

 あらしくんはそらくんのノートを掴み取る。


 あっ、そらくんの大事なノートが!!



「総長が勉強とかクソダサイことしてんじゃねぇよ」



 ビリビリビリッ!

 あらしくんはそらくんのノートを細かく破ると、

 そらくんの頭上からパラパラと降らす。


「な、何するの!」

 私がそう声をあげると、


「あぁ?」

 あらしくんに物凄い形相で睨まれ、私の体がびくつく。


「ボサ女は黙ってそこで見て怯えてろ」


 いつもそらくんに助けてもらってばかり。

 だから今日は私が守るの。


 私は立ち上がると、反対側のソファーに座るそらくんの前まで行き、バッと両手を広げる。


「あぁ?」



「じゃ、邪魔するなら帰って下さい!」



 ズキンッ!


 頭の中で絡み合ったいばらが眠りから覚めたかのような頭痛に襲われ、

 中2の夏にそらくんを庇った映像が流れた。


「う…」

 私は右手で頭に触れる。


雪乃ゆきの!」

 そらくんが立ち上がり、ソファーに座らせる。


「座ってろ」


「へぇ、俺のことはずっと無視ってたくせに」

「ボサ女には反応するんだ?」


 ダァンッ!

 そらくんは瞬時にあらしくんを壁に追い詰め、右手で首を締め上げる。


「次、ボサ女って呼んだら殺す」

 そらくんが鬼の形相をして脅すと、


「いい顔見れたし今日はこのまま帰ってやるよ」

 あらしくんはそう言うと部屋から出て行く。


 そらくんが近づいてくる。

雪乃ゆきの、大丈夫か?」


「うん、もう平気」

 私がそう言うと、そらくんは私の頭を撫でた。


「え!? 夕冠ゆうかん高の人!?」

「今、ウチらの部屋から出て来たよね!? なんで!?」

 あかりちゃんの驚いた声が廊下から聞こえてきた。


「おら!」

「待て!」

 しゅんくんと耀ようくんの声と駆けていく音と共に、

 美青みおちゃんとあかりちゃんが慌てて中に入って来る。


そら!」

「ゆきのん、大丈夫!?」


「あぁ」


「うん、大丈夫」

 私は笑って答えるも不安に襲われる。


 校外学習の時は痛みだけだったのに――――。

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