secret sleep5⚘世界は違わねぇ。

1


 揺れ動く帰りのバス。

 閉まったカーテン。


 何かが近づいてきたような気がしたけど、

 気のせい…だよね?


 私の好きな人は隣の、


 黒沢宙くろさわそらくん。


 イケメン高校生で、

 かっこよくて、

 実は暴走族の総長で、


 私とは違う世界の男の子。



「キャー! お肉焼いてるそらくんかっこいい!」

 5月17日の朝。女子達の甲高い声が廊下中に響いた。


 私はそらくんの隣を歩く。


 お、お肉!?!?

 え、え、なんだろう?


 美青みおちゃんが私達に気づく。

「あ、来た」


「ゆきのん、そら、おはよー!」

 あかりちゃんの明るい挨拶に続いて、


月籠つきかご高校公式サイトの鍵付き特別ページに」

「校外学習の写真、アップされてんぞ!」

 しゅんくんが叫ぶ。


 私の顔が、ぱあっと明るくなる。


 校外学習の写真が!?


「おいで」

 耀ようくんが手招きし、私達は教室の中に入って行く。


「お、ご本人登場!」

 男子の一人が言うと、


「本物もかっこいい!」

 女子達が興奮気味に叫ぶ。


 あ、そらくん、朝からうるせぇなっていう顔して…。


「さすが美青みお、野菜切ってんのに美しいな」

「あかりはペスカトーレ作りの時、ペロって舌出してんぞ笑」


「わー! しゅんやめてー!!」


しゅんこそまきに火つけてる時、墨で顔黒いじゃん」

 美青みおちゃんにそう言われたしゅんは黙る。


「お肉切ってる耀ようくん、かっこいいね」

 私がそう言うと、


「うん! かっこいいの!!」

 あかりちゃんは全力で褒める。


 耀ようくんは、にこっと笑う。

雪乃ゆきのちゃん、あかり、ありがと」


 あかりちゃんはボッ! と顔を赤らめる。

「あ、うん」


 それを見て私は微笑むと、あかりちゃんがコソッと聞いてきた。

「…ゆきのん、もしかして私の気持ちバレてる?」


「…あ、うん」


「…いつからか聞いてもいい?」


「…髪の赤リボン結び直してもらってた時からかな」


「!!」

 あかりちゃんは物凄く驚く。

「…そっか、な、内緒で」


「…うん、内緒」


 ツインちゃんが不満そうな顔をする。

「てか、そらくん、花城はなしろさんとのツーショット多くない?」


 !!

 確かに、一緒にペスカトーレ作ったり、

 お肉や野菜焼いたり、食べたりしてる…。


義妹ぎまい役だから仕方ないんじゃない?」

「でもさ、無表情だけど心許してるオーラ出てるよねー」

 女子2人が写真を見ながら言う。


 えぇ!?

 私にはよく分からないけど、そんなオーラが!?


 整った顔立ちにミステリアスな雰囲気を漂わせた望月もちづき先生が歩いて来て教室の扉を開けた。

「来週の火曜日からテスト期間に入るのに随分ずいぶん余裕だな」

 写真で盛り上がってる女子達にそう嫌味を言うと、


「ギャーもっちー! 言わないでー!!!!!」

 女子達の悲鳴が上がる。


「席に座れ。朝のHRホームルーム始めるぞ」

 望月もちづき先生がそう言うと、

 私達は慌てて着席していく。


 全員が着席すると望月もちづき先生は教壇に立つ。


「えー、中間テストについてだが」

「クラスで一人でも赤点が出たら今月末の体育祭はこのクラスは不参加にさせられるかもしれない」


「はー!?」


「今日金曜日なんですけど!?」

「なんで今頃言うの? 月曜日から言ってよー」

 男女共々不満の声が上がる。


阿久津あくつ先生に言われて急遽きゅうきょ決まったんだ」


「また悪魔かよ」

 男子が不機嫌そうに言う。


 体育の阿久津あくつ先生、

 悪魔ってあだ名で呼ばれてるんだ…。


 望月もちづき先生はそらくん達を見る。

「特にその辺頑張れよ」


「え゛」

 そらくんの隣のあかりちゃんは変な声を出す。


「あー、国語の時といい、剣道の時から完全に目つけられちゃってるね」

 耀ようくんが後ろの席から話しかける。


「めんどくせぇな」

 そらくんは机に右肘を突きながら言った。

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