5


 私と美青みおちゃんは動揺する。


 私が義理の妹なことも知ってるんだ…。


そらくん、私はいいから美青みおちゃんを助けてあげて…!」


 美青みおちゃんは驚く。

雪乃ゆきの、何言ってんの!?」


「ふざけんなよ!」

「俺は両方助ける」


 そらくん……。


 ゴロゴロ……。

 雷が鳴り始め、雨が降り始めた。


「なら助けてみろよ」

 りゅうくんがそう言うと、


 そらくんはリュックを背中から下ろして、私目掛けてぶん投げる。


 え……。


「チッ」

 りゅうくんは舌打ちすると、美青みおちゃんの髪を持ったまま、

地面に放り投げ、


「きゃっ!」


 空いた右腕でリュックを跳ね返す。


 そらくんはリュックを避けると、

 りゅうくんと距離を詰め、

 バク転してりゅうくんの顔目掛けて足蹴りする。


 りゅうくんは右腕で受け止め、そのまま突き返す。


そらくん…!」

 私は叫ぶ。


 ズザザァッ。

 そらくんは地面に右足を滑らせながらも着地した。


「俺から一人解放させるなんて」

黒沢くろさわ、てめぇ強くなったな」

「このままだと俺の大事な姫が風邪をひくから今日のところは一旦引くとしよう」

 りゅうくんはそう言うと私を解放し、

 地面に置いてあるリュックから白のパーカーを取り出し、私の両肩にかけ、フードを被せる。


「え、あの…」


「コラ、お前ら何をやっている!」

 男性の叫び声が遠くから聞こえた。


 りゅうくんは舌打ちする。

「チッ、室星むろぼしか」


室星むろぼしって?」


「俺のクラス、1-Bのうぜぇ担任だ」


「え……」


「心配すんな」

おとりの下っ端達が上手く撒くからここには来ねぇよ」

「それは次に会う時に返してくれればいい」

「またな、姫」

 りゅうくんは私のぽんっと頭を叩き、そらくんの横を通り過ぎる。

 その時、耳元で囁く。



「…まさか姫が一部記憶喪失だとはな」

「…だが記憶があろうとなかろうと変わらない」

「…期限は今年のクリスマスイヴだと忘れるな」



「っ…」

 そらくんは複雑な表情を浮かべるとりゅうくんは歩いて行った。


 終わったんだ…。

 良かった……。


 そらくんは駆けてくる。

「大丈夫か?」


美青みお


 私と美青みおちゃんは動揺する。


 分かってる。

 美青みおちゃんは鬼雪おにゆきの大切な姫だから、

 私より先に心配されるのは当たり前だって。

 分かってるのに。

 胸が凄く痛い。


そら!」

美青みお!」

「ゆきのん!」


 耀ようくんとしゅんくんとあかりちゃんが、それぞれ叫びながら駆けてくる。


雪乃ゆきのちゃん、大丈夫?」

 耀ようくんが心配そうに声をかけてきた。


「あ、うん、大丈夫」


「…そら、そんな態度取ってると、雪乃ゆきのちゃん取られるよ」

 耀ようくんが小声で言う。


「…誰に?」


「…俺に」

「…なんてね」

 耀ようくんはそう言うとあかりちゃんの元へ行き、


美青みお、立てるか?」


「うん、しゅん、ありがと」


 しゅんくんは美青みおちゃんを支えて歩き出す。


雪乃ゆきの、大丈夫か?」


「うん、大丈夫。ちょっと頭痛がしただけだから」

 私はそう言うと、首のネックレスを外に出してそらくんに見せる。


「このネックレス、りゅうくんが渡したって…違うよね?」

「中2の夏に両親に黙って2人で夏祭りに出掛けた時にそらくんが買ってくれたんだよね?」


「…違う。それはあいつのだ」


 そんな……。


「なんで…嘘付いたの?」


「そう言わないとお前外すから」


「意味分かんない」

「なんで外しちゃいけないの?」


「あいつの姫の証だからだ」


 姫の証……?


 ズキンッ。


「ッ…また頭が……」


 そらくんは私を前から抱き締める。


雪乃ゆきの、大丈夫だ。記憶が少しずつ戻ろうとしてるだけだから」


「記憶……?」


雪乃ゆきの、お前は中2の夏に一部の記憶を失ったんだ」


「そう…なの?」


「あぁ。俺からぜんぶ話すことも出来るけどどうする?」


 聞きたい。

 だけど、ぜんぶ聞いてしまったらそらくんが遠くなる気がする。


「いい…」

「自力で思い出すから」


「分かった」

 そらくんはそう言うと私を離し、前にしゃがむ。


「乗れ」


「え、でも」


「そんな状態で歩けねぇだろ。早く」


 私はそらくんの首に両手を回す。

 そらくんはおんぶし、そのまま歩き出した。


 すると徐々に雨が止み、晴れると、私は崖の下の湖を見つけた。


 あ…湖に空が映って……。


そらくん、下見て」


「…あ」


 湖に映った空に浮かぶ天使の翼の雲が美しく輝く。


 私は見惚れる。

「綺麗…」


 そらくんと見られるなんて。

 嬉しい、嬉しい。

 涙があふれてきちゃった…。


「見たのあいつらには内緒な」


「うん、内緒」



 そして無事にゴールに辿り着いた後、望月もちづき先生に心配され、阿久津あくつ先生にはガミガミ怒られ、たまたま全員持って来ていた体操服にバスの中で着替え……、

 帰りのバスが動く中、雪乃ゆきのそらに持たれかかる。


 …みんな寝てんな。

 雪乃ゆきのもさすがに疲れただろうし、寝てるよな?


 “ …そら、そんな態度取ってると、雪乃ゆきのちゃん取られるよ”

 “…俺に”


 “ またな、姫 ”

 “ …記憶があろうとなかろうと変わらない ”

 “…期限は今年のクリスマスイヴだと忘れるな ”


 そら耀ようりゅうの言葉を思い出すと、イラッとし、

 雪乃ゆきのに唇を近づけていく。


「…………」


 そらはキスせずにカーテンで閉められた窓を見て、自分の前髪に手の平を当てた。



「…やべぇ」

「…気持ち爆発するとこだったわ」


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