3



「悪い姫だな」

「立ち入り禁止区域に入って来るなんて」



 綺麗な青色の髪。


 7代目総長氷浦ひうらと背中に書かれた青の字を金色で囲った白の特攻服。


 ムーンバックスで会った青髪の男の子が立っていた。


「え……」

「なんで……ここに?」


「姫のことを待ってたんだよ」


「え、姫?」


「お前のことだよ」


 え、えぇ!?

 私が姫!?

 あだ名か何かかな……。


 …あ、そうだ、星羽ほしばね高もここで校外学習って……。

 でも……なんで特攻服?


「あの、総長って……?」


「あぁ、自己紹介がまだだったな」



「俺は白坂琉しろさかりゅう

「全国頂点の暴走族氷浦ひうらの7代目総長だ」



 全国の頂点!?!?

 じゃあ、そらくんが率いる鬼雪おにゆきより強いってこと!?!?


「やっとお前に言えた」

「内乱が起きてくれたおかげで早く総長になれた」

「あの時はまだ暴走族氷浦ひうらの付き人だったからな」


「あの時? ムーンバックスで会った時ですか?」


「違う。もっと前だ」


 もっと前?

 ムーンバックスの時に初めて会ったのに?


「立ち入り禁止区域って、どういうことですか?」


「看板の裏、見なかったのか?」


「え……」

「もしかして白坂しろさかくんがやったんですか…?」


りゅうでいい」

「あぁ。俺はお前とふたりきりになれるなら手段は選ばない」

「ちゃんと覚えているか? あの日のこと」


 私は首を傾げる。

「あの日のこと?」


「俺の姫になると約束した日のことだ」


 え……。


「俺の姫? なんのことでしょうか…?」

りゅうくんとはムーンバックスで初めて会ったんじゃ…」


「あ? しらばっくれやがって」


 こ、怖い……。


「今から思い出させてやる」


 りゅうくんは特攻服の内側に隠していた首のネックレスを外に取り出し、私に見せる。

 それはインゴットの裏に雪の結晶のシールが貼られたゴールドのネックレスだった。


 え……ゴールド?

 私のネックレスはシルバー。

 え、え、どういうこと?


「なんで色違いのネックレス…」


「新しく買ったんだ」


 なんだろう。

 この先を聞いちゃいけない気がする。

 でも……知りたい。


「なんで…」


「俺が中2の夏あの日、そのネックレスをお前に渡したからだ」


 ズキンッ。

 まるで頭の中で絡み合ったいばらが眠りから覚めたかのような頭痛に襲われる。


「ッ…」


 倒れ掛かるとりゅうくんが前から私を抱き止めた。


「おい、大丈夫か!?」


「ごめんなさ…頭痛が……」


「なるほど。そういうことか」


雪乃ゆきの!」

 美青みおちゃんが駆けてきた。


美青みおちゃ…」


「チッ、鬼雪おにゆき姫のおでましか」


「看板の裏を見たわ」

「立ち入り禁止の文字を見て驚いたわよ」

「まさか全国頂点の暴走族氷浦ひうらがこんな子供騙しな罠を仕掛けるなんてね」


 りゅうくんの顔がまるで氷のように強張る。

「それがどうした?」

「邪魔すんじゃねぇ、今すぐ消えろ」


雪乃ゆきの、今助けるからね」


「助けるだ? あー、うぜぇ鬼雪おにゆき姫だな」

 りゅうくんは私を離すと頭を撫でる。


「すまねぇが少しここで待ってろ」


 りゅうくんが背を向けると、

 私は特攻服の裾をぎゅっと掴む。


「やめ…て、お願い。今校外学習中だから…」


「悪いが俺はお前しか興味ねぇ」

 りゅうくんは私の手を振り払う。


「いいぜ。掛かって来な」


「ナメられたものね」

「余裕ぶっこいてんじゃないわよ!」

「今すぐ消えるのは、てめぇの方だ!!」

 美青みおちゃんは地面を蹴ると飛び上がり、


 くるりと一回転して、蹴り掛かる。


 りゅうくんは両腕クロスで押し返すも頬が少し切れた。


「俺の顔に傷をつけたのは女ではてめぇが初めてだ」

「痛くも痒くもねぇがな」


 美青みおちゃんはふわりと地面に降り立ち、物凄い速さで距離を詰め、

 りゅうくんに殴り掛かった。


 りゅうくんは軽やかに避け、


 トスッ。

 美青みおちゃんのみぞおちに拳を軽く当てる。


「かはっ…」

 美青みおちゃんはりゅうくんの前に崩れ落ちた。


「口程にもねぇな」

 りゅうくんは後ろに回ると、美青みおちゃんの髪を、ぐしゃりと右手で掴み、無理矢理立たせる。


美青みおちゃ…」

 助けようとすると、


 グイッ。

 りゅうくんに左腕で抱き締められた。


「お前を傷つけたくねぇ」

「大人しくしてろ」


 そらくん……。

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