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「え~、今からオリエンテーリングを開始する」

 昼食と片付けが終わった一時間後。木のゲート前で望月もちづき先生が言った。


「俺は先に車で移動してゴール地点で待ってるからな」

「まぁ、テキトーに頑張ってくれ」


「はー!?」

「もっちーずりぃー」

 女子や男子達の不満の声が飛び交う。


「あー、めんどくせぇ」

「って、今日は言わないんだね?」

 耀ようくんがそらくんに尋ねる。


「あぁ、護衛しないといけねぇからな」


 また護衛……。

 強くならなきゃ。


「…護衛って雪乃ちゃんと美青どっちの?」

 耀ようくんが耳元で尋ねるとそらくんは何も答えない。


「それで、コンパスと地図とチェックカード、誰が持つ?」

 しゅんくんが尋ねると、


「コンパスはそら、地図は耀ようでいいんじゃない?」

 美青みおちゃんが答える。


 姫の命令に逆らえないふたりは承諾した。


「残るはチェックカードかぁ」

「ん~、じゃあ、チェックカードはゆきのんね」


「うん、分かった」


「みんな頑張ろうね~」

「頑張ろうぜ」

 あかりちゃんとしゅんくんが明るく言う。


「ほら、行くぞ」

 そらくんが私の右腕を掴んで歩き出す。


「あ、うん」


 私達は木のゲートをくぐってチェックポイントを周り始める。


 そして1時間15分後。


「あ、またポスト見つけたよ、雪乃ゆきの

 美青みおちゃんがそう言うと、私はチェックカードにLOと記入する。


 え、そらくんにチェックカード覗かれ…。


「もう少しで終わりそうだな」


 か、か、顔が近い…。

 それだけでドキドキしてやばい……。


「地図を見る限り、あと2ヶ所かな」

 耀ようくんが両手で地図を広げながら言う。


 しゅんくんが両目を耀かせる。

「マジで!?」

「制限時間まで残り1時間あるし、俺ら一番取れるんじゃね?」


「だね。男女で分かれてチェックポイント探そ」

 あかりちゃんがそう言うと、


 耀ようくんが困った顔をする。

「いや、みんなで探した方が…」


「そうだぞ、熊とか出たらどうすんだよ」

 しゅんくんが続けて言う。


「熊は怖いかも…。でも分かれた方が早く見つけられると思うし…」


しゅん、大丈夫だよ。私がついてるから」

 美青みおちゃんが説得する。


「でもなあ…」


そらいい? 危なかったらすぐここに戻るから」


「分かった」


 “美青みおそらに力を認められて姫役になったんだよ”


 前に耀ようくんがそう言ってた。


 いいな、そらくんに任せられて。


 あかりちゃんが、ふわりと笑う。

「よし、じゃあ雪乃ゆきの美青みお、行こ」


 そらくんが右手に持つコンパスの針が狂い始める。


 私はそらくんをチラッと見た後、ふたりと一緒に歩き出した。



「あっ、看板見っけ」

 15分後。あかりちゃんが木の看板を見て言った。


「これ地図に載ってたから、この先に最後のチェックポイントがあるかも」


「ん? なんか文字書いてある」

「湖に映る空に浮かんだ天使の翼の形をした雲を見つけると両想いになれます」

「だって」

 美青みおちゃんがそう言うと、私とあかりちゃんの両目がキラキラと輝く。


「何それ!? ゆきのん、美青みお、絶対見つけよ!」


「うん!」


「見つけよう!」


 美青みおちゃんと私は力強く返す。


「じゃあ私、先に見てくるね」

 あかりちゃんがそう言って一歩踏み出すと美青みおちゃんが止める。


「ちょっと待って。なんか道険しくない?」


「あー、確かに」


 “熊とか出たらどうすんだよ”


 しゅんくん、さっき、そう言ってたし、

 一人で行くのちょっと怖いけど、私、

 ふたりの力になりたい。


「じゃあ、私が先に行って確かめてくるね」

美青みおちゃんとあかりちゃんはここにいて。すぐ戻るから」


 ダッ!


「あ、雪乃ゆきの!」


「ゆきのん!」


 美青みおちゃんとあかりちゃんの名前を呼ぶ声を無視して私は全力で駆けていく。


 あれ?

 もっと道が険しくなって……。

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