secret sleep4⚘悪い姫だな。

1


 ブロロロ……。


 5月10日の朝。私は1年A組のバスの中にいた。


 月籠つきかご高校は今日、校外学習で、

 女子はピンクグレー、男子はブルーグレーのジャージを着ている。


 そして私の班の席は後ろの方で、両隣は……。


そら、今日は寝ないの?」


「寝れんわ」


 窓側にそらくん。

 通路を挟んで耀ようくん。


 なんでこの席になったかと言うと。


 バスの席を決める時に私のクラスは32人(男子が17人、女子が15人)で、

 絶対に誰かは男女と隣同士にならないといけなくて、


 GW ゴールデンウィーク前、苗字が花城に戻って一人ぼっちに戻ったんだって絶望してた私に、


 “ありのままの姿で花の城から出て、お前は変わっていける”

 “どこまでも”


 そらくんが花城に光をくれたから、


 “そらくんと一緒に変わっていきたい”


 そう決意した私は「だ、男子の隣でいいです!」と自ら立候補した。


 男子は立候補する人がいなくて、話し合った末にジャンケンで負けた人がなることになり、男子の方はジャンケンで決める事に…。


 そしたらまさかのこんな奇跡ミラクルが……。


 ツインちゃんが唇をとんがらせる。

「えー、花城はなしろさんだけずるくない?」


「ずるくないよ」

「ゆきのんはみんなの為に立候補してくれたんだから」

 そらくんの後ろに座るあかりちゃんが言い返す。


「まぁいいけど?」

「どうせそらくんは義妹ぎまい役なだけなんだから」


「あぁ言ってるけど、そうなの? そら

 耀ようくんが、にっこり笑って尋ねる。


「…護衛ごえい

 そらくんが無表情な顔で答えた。


 ご、護衛ごえい!?!?

 私が班の中で一番弱そうだからかな……。


「あかり、雪乃ゆきの、ポッティー食べる?」

 私の後ろに座る美青みおちゃんが聞いてきた。


「うん。美青みお食べる~」


「わ、私も」


「俺にもくれ」

 耀ようくんの隣に座るしゅんくんが頼む。


しゅんには聞いてないしあげない」


「はぁ!?」


 耀ようくんがしゅんくんの左肩をぽんっと叩く。

「振られたね。ドンマイ」


「お前、ぜってぇ面白がってるだろ」


「え~?」


 美青みおちゃんは隣のあかりちゃんと前の私にポッティーを手渡す。


 私達はカリカリカリ…、とかじっていく。


 ポッティー、美味しい。


 ぽすっ。


 …ん?


 そらくんが持たれ掛かって来た。


 !?!?!?


 突然の事に頭がパニックになる。


 耀ようくんが、ははっ、と笑う。

そら、結局、寝るんかよ」


 すでに息が出来ない。

 現地に着くまでに息絶えそうだ。



 バスが駐車場に到着すると、私達は望月もちづき先生に続いて山道を登っていく。


 あちこち森ばっかり…。

 毎朝、駅の上り階段で足腰鍛えられてるはず? なのに。

 つ、辛すぎる……。

 しかも今頃眠気が……。


 ふらぁ……。


雪乃ゆきの!」

 そらくんがパシッ! と私の左腕を掴む。


「ご、ごめ…眠くて…ありがとう」


雪乃ゆきの、口、開けろ」


「え? 口?」

 口を開けると、そらくんは顎を掴み、グレープ味のグミを1個落とす。


 あ…口の中でグミキャンディーがパチパチとはじけ出して……。


「眠気、少しは冷めたか?」


 少しどころじゃない。

 ドキドキが止まらなくて、もうぱっちりだよ。


「う、うん。そらくん、ありがとう」



 その後、キャンプ場に着いてそらくん達と調理し終えるとお昼の時間になっていた。


そらく~ん、お肉と玉ねぎとペスカトーレちょうだい♡」


 屋根の下で私達が木の長椅子に座る中、紙のお皿を持った女子達がずらりと並ぶ。


「私はウインナーとトウモロコシ!」


そらの代わりに俺があげるよ」

 耀ようくんが女子のお皿にはしで盛ろうとする。


「おい耀よう、やめろ」

 そらくんが止めると、阿久津あくつ先生が駆けて来た。


「コラ! またお前らか!!」

「自分の班に今すぐ戻れ!!」

 阿久津あくつ先生が怒鳴る。


「こっわ~」

「いいもん。そらくんの調理してるところ写メ撮れたから」

 女子達は文句を言いつつ戻っていく。


「じゃあ、食べよっか」

 あかりちゃんがふわりと笑う。


「うん」

 美青みおちゃんが短く答えると、


「いっただきま~す」

 しゅんくんが明るく言う。


 私達ははしでキノコとペスカトーレを食べ始める。


 あ、キノコとペスカトーレ、美味しい。


 パシャパシャ。

 スマホのシャッター音が鳴り響く。


そらくん、ペスカトーレかじってる~、かっこいい~!」


「撮るな、うるさい。はい、スマホ没収」

 望月もちづき先生にスマホを取られ、女子達のギャー! と言う悲鳴が響き渡る。


そら、何? 芸能人?笑」

 あかりちゃんが茶化すように言う。


 芸能人じゃなくて、総長です。


 そらくん、凄いなぁ。


「なぁ、聞いたか?」

星羽ほしばね高の奴らも今日、ここで校外学習だってさ」

 後ろの班の男子達がコソコソと話す。


 え、星羽ほしばね高って……。


 “すみません、大丈夫でしたか?”

 青髪の男の子のムーンバックスでかけられた言葉を思い出す。


 確か青髪の男の子が通ってる高校だよね?

 青髪の男の子も来てるんだ……。


星羽ほしばね高って、ここより偏差値低くて学級崩壊してるって噂の?」


「そうそう」

「今日なんかパーカーの奴以外、全員、Tシャツにジーパンで」

「ヒール履いて来た女子もいるらしい」


「マジかよ笑」


 星羽ほしばね高って、そんな感じなんだ……。

 気をつけよう。


「ん? そら、今、何考えてる?」

 耀ようくんが、右肘を木の机に突いたそらくんに尋ねる。



「別に、なんでもねぇよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る