5

 え?


花城はなしろちゃん、似合ってる」


 ストロベリーチョコフラペチーノを右手で持った耀ようくんが後ろに立っていた。

 カップには月のお姫様が描かれている。


 よ、耀ようくん!?!?


 耀ようくんはそらくんに、にこっと笑いかけると、

 そらくんは無視スルーする。


 そして、私に荷物を全て渡すと、ストロベリーフラペチーノとストロベリーチョコフラペチーノをカウンターに頼みに行った。


 私は耀ようくんとみんなのところまで歩いて行く。


「おかわり貰って来た」

花城はなしろさん、そらの荷物持ちか。大変だね」

 耀ようくんはそう言うと、しゅんくんの隣の席に座った。


 そして両手にフラペチーノを持ち、そらくんが戻って来ると、


「コラ、遅いぞ日直、ちゃんと黒板消して来たか?」

 しゅんくんが先生風に尋ねた。


しゅん、やめろ。ぶあははっ」

 耀ようくんは爆笑する。


 「…あ? てめぇら、後でツラ貸せや」

 そらくんが2人にブチ切れながらボソッと呟く。


 しゅんくんと耀ようくんは一瞬で凍りついた。


 私とそらくんは前後に座る。


「はい、雪乃ゆきの


「あ、ありがとう」

 私はそらくんからストロベリーフラペチーノを受け取ると飲んでみる。


「お、美味しい」


「うん、美味しいよね」

美青みおのチョコも美味しそう」

 あかりちゃんがストロベリーフラペチーノを持ちながら言うと、


「ん、ストチョコもイケるよ」

 美青みおちゃんがストロベリーチョコフラペチーノを飲みながら言う。


 あ、耀ようくんと目が合って…。


「それにしても花城はなしろちゃん、先生に目付けられて災難だったね」


「マジ、ウチの高校のセンコウ頭イカれてるぜ」

「あー殴りてぇ」

 しゅんくんがそう言うと、そらくんはストロベリーチョコフラペチーノを黙って飲む。


 そらくんが眩しい。

 フラペチーノ飲んでるだけなのに、かっこいい。


「…そうだっ。校外学習の班、この6人で組まない?」

 あかりちゃんが尋ねてきた。


「いいんじゃね? な、そら

 しゅんくんは同意を求める。


「あぁ」


「え……」


 私がそう言うと、一気に視線が集まった。


花城はなしろさん、私達と同じ班なの嫌?」

 あかりちゃんは心配そうに尋ねる。


「あ、違…嬉しい。嬉しいけど」

「こんな私が一緒でいいのかなって」


「は? 何言ってんの?」

 美青みおちゃんがブチ切れる。


「私達、もう仲間ともだちじゃんか」


「えぇ…?」


「えぇって何!? 文句ある!?」


美青みお、落ち着いて」

「そうだ、名前で呼んでないから実感わかないんだ!」

「ゆきのんって呼ぶね」

 あかりちゃんは満面の笑みを浮かべる。


「じゃあ、私は雪乃ゆきので」


「俺も、そう呼ぼっと」

 美青みおちゃんに続けてしゅんくんが言う。


「俺は雪乃ゆきのちゃんかな」

 耀ようくんが笑いかけてくる。


 私は右腕で両目を隠して俯く。


雪乃ゆきの、泣いてんじゃねぇよ」

 そらくんは呆れながら笑う。


「泣いて…ないよ」


 私は右腕を下ろして顔を上げ、そらくんに満面の笑みを浮かべる。


「よし、ゆきのん、みんなでライン交換しよ」

 あかりちゃんが目を輝かせながら言うと、


「うん!」

 私も同じ表情で返す。


 友だち

 お母さん

 あかりちゃん

 美青みおちゃん

 耀ようくん

 しゅんくん


 そして…、


 そらくん。


「全員登録完了したことだし」

「私、おかわりして来ようかな」


「俺も」

美青みお行こうぜ。おごる」


「ありがと」


 美青みおちゃんとしゅんくんは席から立ち上がると、

 一緒に注文カウンターまで歩いていく。


 校外学習の班、そらくん達の班に誘ってもらえただけじゃなくて、

 名前で呼んでもらえるようになって、

 ライン交換まで。


 嬉しいなぁ……。


 なんだか夢を見てるみたい。


雪乃ゆきの、お前の少し飲んでもいいか?」

 そらくんが尋ねて来た。


「え? あ、うん」

 私は渡そうとすると、


 ポンッ。

 通りすがりの人の体が私の肩に当たり、ストロベリーフラペチーノが入ったカップが傾く。


 あっ……。


 そらくんはカップが倒れないように私の右手をカップごと掴む。


「危ねぇな」


 そらくんと耀ようくんが両目を見開く。


 着崩した紺のブレザーに星と羽のエンブレム。

 白と紺チェックのネクタイ。

 黒と紺チェックのズボン。


 そして、両耳ピアスと綺麗な青い髪……。

 わ、かっこいい……。


「すみません、大丈夫でしたか?」


「はい、大丈夫です。こちらこそすみません…」


 青髪の男の子とそらくんが見つめ合う。


「またな、黒沢くろさわ

 青髪の男の子は余裕の笑みを零すと、

 連れの男の子と一緒にムーンバックスを出て行った。


「え!? 今の星羽ほしばね高の人だよね?」

「何? そら、知り合い!?」

 あかりちゃんが驚きながら尋ねると、


「…………」

 そらくんはテーブルに右肘を付き、無表情なまま何も答えない。


 星羽ほしばね高の人なんだ…。

 黒沢くろさわくんと、どんな関係なんだろう。



「嬉しそうっすね」

 連れの紺のブレザーを着崩した白髪の男子が話しかける。


「“総長”」


「校外学習か」

「こりゃやっと楽しめそうだな」


 青髪の男の子は見えないように首に付けていたネックレスを取り出す。


 インゴットの裏に雪の結晶のシールが貼られたゴールドのネックレスがキラリと光り、ぎゅっと握り締める。



「“俺の姫”と」


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