3


「えー、最後にこの問題を一人に解いてもらう」

 昼休みは過ぎ、6限。クールな国語の先生が黒板の前で言った。


「なお、この問題が解けるまで全員帰れない」


「ええー!? この授業終わったらGWゴールデンウィーク突入なのに」

「早く遊びたーい」

 周りの女子と男子達がコソコソと話す。


 昼休みは不覚にもあのまま少しだけ寝ちゃった…。


 眠れない私がだよ?

 信じられない。


 しかもそらくんの腕の中って……。


 そらくんは全然平気そうだったなぁ…。


 ドキドキしたり、心地よかったり、

 恋って忙しい……。


 てか、解けるまで全員帰れないって…。


 問題、はなのしろに眠るお姫様、なんだけど…。


 私の苗字が答えなんて恥ずかしい…。


 私はたぶん当たらないと思うけど、

 誰が当たるんだろう…。


黒沢くろさわ、前に出ろ」


「…………」


 あ、そらくん、また寝てる…。


「また寝たフリか」

「昨日の剣道の授業でも寝てたそうだな」

「登校してくるようになって少しはマシになったかと思ったが」

「全く成長してないな」

「せっかく中学レベルから小学レベルの漢字にしてやったのに」

「もういい。この問題は…」


 え、先生と目が合って……。


花城はなしろ、お前に解いてもらう」


 ええ!?


「ちょ、自分の苗字をわざわざ黒板に書かせるって」

「やばー、花城はなしろさん可哀相~」


 周りの声が痛い。


 私は席を立ち、黒板の前まで歩いて行く。


「お前ら良かったな」

「これで授業終わってGWゴールデンウィーク遊びまくれるぞ」

 国語の先生がにっこり笑う。


 白のチョークを持った手が震える…。


 自分の苗字を書くだけ。

 書くだけなのに。


 国語の先生が耳元に唇を近づけてくる。

「…花城はなしろ、昨日、剣道の授業で反論したみたいだな?」

「…おかげで関係ない俺までとばっちり受けてさ」

「…お前みたいなボサ頭は家でずっともってればいいんだよ」


 ガタッ。

 そらくんが突然、席から立ち上がった。

 そして私のところまで歩いてくる。


「貸せ」

 そらくんが私から白のチョークを奪う。


「あっ」


 カッカッ、とそらくんは黒板に書いていく。



 はなのしろに眠るお姫様

 花  城



 そらくんは書き終わると白チョークをボキッと折り、

 国語の先生を鬼のような顔で睨む。



「先生、これでいいっすか?」



 国語の先生の身が縮こまる。

「あ、あぁ。いいよ(泣)」


 そらくん、また助けてくれた……。


 花城はなしろの字が綺麗で、

 自分の苗字を書いてもらっただけなのに嬉しくて仕方ないよ。

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