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 え、女子と男子が廊下にいっぱいいる…。

 同じ学年の子や先輩、

 しかも普通科だけじゃなくて違う科の子達まで…。


「そーそー、黒髪がキラキラ耀ようくんで」


「銀髪がしゅんくん」

「春と書いてしゅんと読むなんて珍しいよね」


「うんうん、3人ともウチの彼氏にしたい!!」


「おい、欲張りすぎ笑」

 女子達がそう盛り上がる中、男子達も話し始める。


「金髪の美青みおちゃん、名前だけにちょー美人!!」


「茶髪に赤リボンのあかりちゃんも可愛くね?」


「おい、あかり、褒められてんぞ」

 廊下側から2列目の一番前に座るそらくんの前に立ったしゅんくんが笑いながら言う。


「えー!? 私!? ないない!!」

 廊下の窓側でそらくんの隣の席のあかりちゃんは右手を横に振りながら否定する。


 すると、そらくんの後ろの席の耀ようくんがあかりちゃんを見て気づく。

「あ、髪のリボン、ほどけかけてる」


「え、ほんと?」


「結び直してあげようか?」


「うん、お願い」


 耀ようくんは席から立ち上がると、

 あかりちゃんに近づいていき、

 髪の赤リボンをキュッと結び直す。


「出来たよ。これで大丈夫だね」


「あ、あ、ありがと」

 あかりちゃんが顔を赤らめながらお礼を言うと、

 耀ようくんは自分の席に戻っていく。


 え、え!?

 ま、待って、あかりちゃん、耀ようくんのこと…えぇ!?

 そらくんの初登校の日、一番に話しかけてたし、幼馴染だから、てっきりそらくんに好意があるんじゃないかなって思ってたけど違ったんだ…。


そらくん達、彼女とか好きな子いるのかな~?」

「彼女はいないっぽいよ」

「マジで!? でもさすがに好きな子はいるんじゃない?」

 廊下で女子達がそう話し終えると、


「コラ! お前達、何やってる!!」

 阿久津あくつ先生の怒鳴り声が響く。


「やば、行こ」


 パタパタッ。

 女子も男子も一斉に教室に走って戻っていく。


「よーし、じゃあ、朝のHRホームルーム始めるぞ」

 望月もちづき先生が教室に入って来た。


「もっちーは注意しねぇのかよ笑」

 クラスの男子が笑いながら言うと、しゅんくんは戻って来て私の前の席に座る。


 そらくん、好きな子はいるのかな?

 分からないけど、聞く勇気もないけど、

 もしいるんだとしたらそれは、


「あ、そら、寝始めた」

 耀ようくんがそう言うと、


 真ん中の列で耀ようくんの隣の席に座る美青みおちゃんは満面の笑みを浮かべる。

「このタイミングで寝るとか。そららしい」


 ふと窓の外を見ると、薄っすらとボサ頭の私が映った。


 ――――うん。

 絶対に私じゃない。



「なんか距離、遠くね?」

 昼休み。1階奥の空き教室で右膝を立てて座ったそらくんが言った。


 私は外に出しているネックレスを右手でぎゅっと掴む。


 ドックン、ドックン、ドックン。


 ふたりきりなだけで、もう胸が騒がしい。

 い、意識しすぎて、近づけない……。

 お、落ち着いて私。


「わ、私に構わず寝て」

「終わりのチャイム鳴ったら、ちゃんと起こすから」


「悪いけど俺、眠れそうにないわ」


「あ、朝のHRホームルームで寝てたもんね?」


「違げぇよ」

 そらくんはそう言って立ち上がると、私に近づいてくる。

 そして私の隣に座ると、


 しゅるっ。

 私の制服のリボンをほどいた。


 その瞬間、時が止まったかのように思えた。


 そらくんは私のグレーチェックの膝かけを奪う。


「あっ…」


 私が声を出すと、

 そらくんは膝かけで私の体をふわりと包み込んで、前から抱き締めた。


 ネックレスがそらくんの胸に当たって…。


「え、え、そらく…」


「あー、ほんと、お前捕まえてねぇと俺が無理だわ」

「眠れねぇわ」

「今朝も自転車にかれそうになるし」


「で、でもそらくんが助けてくれた」


「あぁ。だからこのまま寝る」


 えぇ!?


「はっ、何驚いてんの?」

「昔もこんなふうに寝てただろ」


 なっ、なっ…。


「ね、寝てないよ」

「それに義妹ぎまい役だから助けてくれるんでしょ?」


 あ、スネた言い方になっちゃった……。


「お前まで変な噂信じてんじゃねぇよ」

「役で俺がリボンほどくと思う?」


 そらくんの甘い吐息が耳にかかる。

「…言っとくけど、俺、義妹ぎまい役になったつもりねぇから」


「っ…」


「チャイム鳴ったら、ちゃんと起こせよ」

 そらくんはそう言うと、私を抱き締めたまま両目を閉じる。


 体中が熱い。

 このままじゃ私の心臓が持たない。

 だから、早くチャイム、鳴って。


 ……え?

 そらくんに頭撫でられ…。


 そらくん、まだ寝てない!?


 ど、どうしよう。

 撫でられるの、心地よくて…うとうとしてきちゃった…。


 眠らせないで…欲しい…のに……。


 私は両目を静かに閉じた。

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