5


 びっくりしてネックレスを手放す。


 え、もしかして先生!?


「何やってんの?」

 そらくんはわざと引き手に横から手を突き、顔を覗かせる。


 そらくん!?!?


「な、なんで…立ち入り禁止なのに…」


「一人で歩いて行くのが見えて気になって」


 お、起きてたの!?


「まさかこんな所に秘密基地作ってたなんてびっくりだわ」


 秘密基地!?!?


「基地なんて、そんなたいそうな…」

「偶然この部屋の鍵が壊れてて入れて」

「こっそり使わせてもらってたりするだけで…」


「不法侵入」


 う……。


 そらくんは扉を閉めると私の隣に右膝を立てて座る。


「最近、寝れてねぇの?」


「え?」


「両目の下にクマ出来てる」


 クマ…恥ずかしい……。


「今朝も眠れなくてジュース買いに行ったり」

「小学生の頃だっけ?」

「離婚して再婚した今は寝られないって言ってただろ」

「だから別れた今はどうなんかなって」


 私は右膝に顔を埋める。

「…ますます眠れなくなった」


そらくんは?」


「俺も眠れてねぇよ」

「特に今日とか」


 あ……。


「ごめんね」

「私と会わなかったら、もっと早くマンションに帰れたよね……」


「はー、違げぇわ」


 え、理由、違う!?


「教室だと女子達がギャーギャーうぜぇし」

「今日から昼休み、俺もここで休むわ」


 ええ!?


「じゃあ、ここ使って。私違う場所に…」


 そらくんは私の制服のリボンを掴む。



「違う場所に行ったら、お前の昔の秘密バラす」



「わ、分かった…行かない」


 そらくんはリボンから手を離すと私の肩に持たれかかって来る。


 なっ、なっ…。


そらくん」


「何?」


「ど、どう? 眠れそう?」


「どうかな。お前は?」


 こんなの、眠れる訳ない。


「私、義理の妹…なんだよね?」


「あぁ。プラス秘密の関係」


 空き教室のカーテンが、まるで翼のように、ふわっと上がったかのように見えた。


 そらくんは元義理の兄で、


 昼間はイケメン高校生、

 夜は総長で。


 血の繋がりもなくて、

 私はただの地味な女の子で。


 そらくんのことは、ずっとずっと好きだけど、

 それは義理の兄としてなのか、

 恋なのかさえ、よく分からなかったのに。


 世界が違いすぎるって、分かってるのに。


 ぎゅっと右手でネックレスを握り締める。


 好きがあふれて、もう、無理だ。


 私、

 そらくんのこと、

 一人の男の子として好き。


 だから。


「お願い…眠らせないで」


「もちろん、眠らせねぇよ」


 零れ落ちていく涙がキラキラと光る。


 今日、そらくんと秘密の関係になった。


 そらくんは余裕な笑みを零す。


 もう、やめられそうにない。

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