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 それ以上でもそれ以下でもない…。


 そらくんの右手が口から離れた。

 そらくんは体育館の着替え室に行き、耀ようくんが追いかけていく。


 義理の妹だって言ってくれるの、すごく嬉しい。

 はずなのに。


 私は自分の胸に右手を当てる。


 心がきゅっとして、痛い。



そら、待てよ」

「授業中、寝てるフリしてずっと花城はなしろちゃんのこと見てたよね?」

「義理の妹で大事だから?」


「それとも、他に何か“秘密”があるのかな?」


 耀ようが尋ねるとそらは怖い顔をする。


「なんもねぇよ」



そら、マジお疲れ」

 昼休み。屋上でパンを食べ終えて右膝を立てたまま寝たそら くんに向かってしゅんくんが言った。


 私は今、みんなと売店で買ったパンを食べている。


 そらくん、やっと女子達から解放されて眠れたみたい…。


「今日の帰り、みんなでムーンバックス寄ってかない?」

「期間限定でストロベリーとストロベリーチョコが出たの」


「あ、それ知ってる。私も飲みたい」

 美青みおちゃんが、あかりちゃんの話しに乗ると、


「俺も。飲んでみたいな」

 しゅんくんが続けて言う。


「よし、じゃあ、みんなで行こうか」

 耀ようくんが、にっこり笑う。


「やったぁ~!!」

 あかりちゃんが嬉しそうにはしゃぐ。


 みんな楽しそうだな……。


 …あ、どうしよう。

 気分悪い。


「ちょっとトイレに行って来るね」


 みんなが楽しく話している中、私は立ち上がって扉まで歩いて行き、屋上から出て行く。



 10分後。1階の奥まで着いた私は立ち止まる。


 目の前の教室の扉には立ち入り禁止と書かれた紙がテープで貼ってあって、

 ほんとうは入っちゃいけないけど。


「失礼します」


 ガラッ。

 私は空き教室の扉を開ける。


 誰もいないって分かっててもつい、「失礼します」って言っちゃうな…。


 ここは元生徒会室。

 今では使われてなくて空き部屋になってて、

 4月の入学式以降、

 ぼっちな私はクラスにいずらくて居場所を探してたら、

 偶然この部屋の鍵が壊れてて入れて、

 今ではこっそり使わせてもらってたりする。


 私は扉を閉めて、廊下側の窓の前に座った。

 そしてあらかじめ置いてあるふわふわのグレーチェックの膝かけをかける。


 やっぱりここ、落ち着くなぁ。


 私は首のネックレスを白いシャツの中から取り出し、右手の平に乗せたまま見つめる。


 “義理の妹だって”

 “それ以上でもそれ以下でもねぇよ”


 そらくんの言葉を思い出したら涙出てきちゃった…。


 ガラッ。

 空き教室の扉が開いた。

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