3


「ねー、見て見て。花城はなしろさん、壁に向かって素振りしてる」

「しかも、ぼっちとか笑」

 朝。体育館でツインテールの女子が言った。


 今日の一限目は剣道で、

 みんな面はつけておらず、剣道着だけ着ている。


「みんなテキトーにやってんのにチョー真面目すぎ。ウケる笑」


花城はなしろさん、ウチらも一緒にやってもいい?」


 あ、美青みおちゃん。

 茶髪ボブに赤のリボンを右耳の上で結んだ海原うみはらあかりちゃんも…。


「あ、ど、どうぞ」


 3人で並んで素振りしてる。


 そらくんと昨日再会する前までは、ずっとぼっちだったのに。

 嬉しくて嬉しくて、泣いてしまいそうだ。


「おい、黒沢くろさわ、起きろ」

 コワモテな男の体育の阿久津あくつ先生が声をかけた。


「俺の授業で寝るとは良い度胸だな」

「これだから紫頭は」

「まぁ、やったとしてお前に剣道なんて無理だろぉがなぁ?」


「せ、先生、そんな言い方はないんじゃ…」


 周りは驚く。


 あ…、は、初めて声上げちゃった。


「ボサ女は黙ってろ」


 ボサ女!?

 合ってるけど…そらくんのこと助けられなかった。


 そらくんは目を開け、私を見る。


 え、目が合って……。


 そらくんは立ち上がった。

耀よう


「やる気になったみたいだね。はい、そら

 耀ようくんは竹刀を軽く投げる。


 そらくんはパシッと受け取った。

「先生、練習相手になってもらっていいですか?」


「なめやがって。いいだろう」


 阿久津あくつ先生とそらくんは竹刀を持って向き合う。


「来い」


「じゃあ遠慮なく」

 そらくんは目にも見えない速さで近づき、


 シュッ。

 阿久津あくつ先生に竹刀を振り下ろす。


 その時、そらくんの体に翼が生えたかのように見えた。


 竹刀は阿久津あくつ先生の頭上で止まる。


 そらくんは余裕の笑みをこぼす。



「先生、これでいいですか?」



「キャー!! そらくんかっこいい!!」

 女子達の歓声が上がる。


 そらくんにドキドキが止まらない。


 キーンコーンカーンコーン♪


 あ、終わりのチャイム…。


「チッ、では解散」

 阿久津あくつ先生は不機嫌そうに言った。


花城はなしろさん、ちょっといい?」

 ツインテールの女子が話しかけてきた。


 いつもみんなにツインって呼ばれてる子だ…。


花城はなしろさんってさ、そらの義理の妹なんだよね?」


「あ、うん」


「なのになんで苗字違ってるの?」


 え……。


 周りの女子達は、ツイン、よくぞ聞いてくれた! という顔をしている。


「あ、それ、俺も気になってた」

そら、プライベートなことあんま話してくんねぇし」

 しゅんくんがそう言うと、


「バカ」

 耀ようくんは、にこっと笑って言う。


しゅん、空気読みなよ」


「え、美青みお、なんで急にキレてんの?」



「義理の妹なのに苗字違うってことはさ、別れたってことじゃね?」

「なるほど、元義理の妹か」

 男子達まで会話に参加してくる。


 ど、どうしよう……。


「こういうプライベートな話やめよ」

「義理の妹でも元義理の妹でもそらの中では義理の妹なんだからそれでいいと思う」


 まさかあかりちゃん、かばってくれるなんて…。


「あかり、そらくんの幼馴染だからってイキがんなよ」

 ツインちゃんが刺々しく返す。


 え、あかりちゃんってそらくんの幼馴染なの?


「現在義理の妹なのと元義理の妹とでは関係性が変わってくるっていうか」

 ツインちゃんが不満げに言う。


「モテる男は辛いね。まぁ、俺もだけど」

 耀ようくんがそう言うと、


「は?」

 そらくんが冷たい表情で返す。


「で、花城はなしろさん、どうなの?」


「そ、それは…むぐっ」


 そらくんに後ろから口塞がれて…。


「その先は言うな」


そら、夫婦別姓してるから苗字違うんだよね?」

 耀ようくんが適当にフォローする。



「あぁ」

「昨日も言っただろ」

「義理の妹だって」

「それ以上でもそれ以下でもねぇよ」


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