secret sleep2⚘眠らせないで。

1


「もう朝の2時か…」

 眠れない私は、ベットから起き上がった。


 朝の5時まで残り3時間。

 3時間は寝ておきたいけど無理そう……。


 昨日の朝まではそらくんに会いたくて、

 とにかく会いたくて、

 暗闇のベットの上で一人、両手で顔を隠して泣くだけだった。


 でも、5月になった今日は。


 私は自分の唇に人差し指を当てたそらくんを思い出し、

 ベットの上で自分の顔を両手で隠す。


 顔が熱い。

 今日から高校で毎日そらくんに会えると思うと、

 嬉しくて眠れなかった。



 だけど、幸せな気持ちはすぐに掻き消される。


雪乃ゆきの、何よそのボサ頭は!」


 パチーン!

 シルバーのネックレスを首につけてTシャツの中に入れ、部屋を出て居間に行くと、お母さんが右の頬を平手打ちした。


 私はこんなお母さんと15階建てのマンションの6階の部屋に住んでる。


 私の部屋はシンプルで可愛く、

 学習机とか、必要最低限の物しか置いてないけど、


 お母さんの部屋は鞄とか服とか靴でごちゃごちゃしていて、

 居間も片付けてなくて汚い。


 おまけに……う、酒臭い。


 私は部屋に充満する酒臭い匂いに顔をしかめる。


 缶ビールや瓶が転がっていて、キッチンの流しも洗っていない食器で埋まってる……また片付けなきゃ…。


 前は綺麗好きなお母さんだった。

 でもバツ2になったお母さんは変わってしまった。


 私は熱くなった右の頬に触れる。


 頬がじんじんする。

 心も痛い。


「別にいいでしょ」

「ちょっと自販機まで行ってジュース買ってくるだけだから」


「何? 1円も稼いでないあんたが私に口答え?」

「やっぱり、あのクズ男の子ね」

「わざわざ遠い高校選ぶわ、高校生になったらなったでそんな頭しだして」

「何? バツ2の私に対する嫌がらせ?」

「看護師として日々働いて、たっかい授業料払ってやってんのに!」

「この穀潰ごくつぶしが!」


 違う。

 遠い高校を選んだのはそらくんとの約束を果たす為で、

 髪は目立ちたくないからなのに。


 でも、言ったところで、信じてなんてもらえない。


 私の両目が潤む。


「っ…」

 私はお母さんに背を向けて、玄関まで走る。


 そしてスニーカーを履き、家を出た。



 そして、自動販売機の前まで駆け、一人で泣く。


 自動販売機の光が眩しい。


 あ、グレープジュース……。


 今の私にはそらくんが眩しい。


「お嬢ちゃん、今一人?」

 酔っ払いのおじさんが話しかけてきた。


 え、え、何?

 こ、怖い……。


 私は無視をする。


「泣いてるの?」

「何か嫌なことでもあったのかい?」

「おじさんがなぐさめてあげようか? お嬢ちゃん♡」


 ガシッ。

 酔っ払いのおじさんに腕を掴まれた。


 力強い腕。

 振りほどけない。


 あぁ、もうどうでもいいや。

 何処へでも連れて行って。


 ブォオン

 ブォオン

 ブォオオオンッ!


 走ってくるバイクの眩しい光が私達の全身を照らす。



「その汚ねぇ手、今すぐ放せや」


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