5


「同じクラス…そらくんもこの高校に入れたんだ」


 そらくんに早く会いたい。

 教室に行こう。


 私は1年A組まで駆けて行く。


 だけど黒沢宙くろさわそらの名前シールが貼られた席には誰も座らず、空席のまま終わり、


 帰る前に教室で担任の望月もちづき先生に聞いたら、


「あー、あの紫頭か」

「入試の時は見かけたが、遊び歩いてるって噂だぞ」

「いつかは来るんじゃないか?」


 その言葉を聞いて、私は目の前が真っ暗になった。



 だけど今は。


黒沢くろさわ花城はなしろ、遅刻とは何事…」

「キャー! そらくん!」


 15分後。1年A組に着くと、望月もちづき先生の言葉を女子達がさえぎり、そらくんはクラスの女子達に囲まれた。


 す、凄い……。


「コラ! 席に戻りなさい!」

「まだ朝のHRホームルーム終わってないぞ!」


「終わったも同然じゃん」

「もっちーの話長いし」

そら、中学ぶりだね」

花城はなしろさんと知り合いなの?」

 茶髪ボブに赤のリボンを右耳の上で結んだ女の子が尋ねる。


 胸がドキドキする…そらくん、なんて答えるんだろう。


「あぁ、義理の妹だ」


 私は目を見開く。


「ええ!?」

「義理の妹!? 花城はなしろさんが!?」


 なんで“元”付けないの?


 もう義理の妹じゃないのに。


「あ、これ渡すの忘れてたわ」


 そらくんは私に向かってある物を投げる。


 私はパシッと受け取った。

 小さな袋のパッケージにはグレープ味と記載されている。


 これ…、別れる前に一緒に食べたグレープ味のグミキャンディー。



 なんで離れないといけないの?

 やだ、やだよ。


 そらくんはビリッと小さな袋を破り、

 グレープ味のグミキャンディーを一個掴む。


雪乃ゆきの、口開けろ」


「わっ、パチパチする」


「あぁ、雪乃ゆきの、刺激的だろ?」


 私達はお互いの頬に両手で触れる。


月籠つきかご高校で会おうな」



 私は小さな袋をぎゅっと抱き締めて泣く。


「ちょっとそら、変なもの渡すから花城はなしろさん泣いちゃったじゃん!」

 茶髪ボブに赤色リボンの女の子が叫ぶ。


 もしかして紫髪に染めたの、

 グミキャンディーのこと思い出して欲しかったから?


 食べてないのに、

 心の中でグミキャンディーがパチパチとはじけ出す。


 そらくんを見ると、

 そらくんは自分の唇に人差し指を当てた。



 花城雪乃はなしろゆきの、16歳。


 刺激的な春が突然やってきて、

 今日も眠れそうにない。


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