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「もし暴走族鬼雪おにゆきの事、誰かに言ったら昔の秘密バラすからな」



 ええ!?



「行くぞ」



 駅から出ると、


 ――――サァッ。

 風が吹き、まだ残っていた遅咲きの桜の花びらが舞う。


 私達はその中を駆けて行く。



 私とそらくんが初めて出会ったのは小5の夏。


 お母さんに知らない家まで連れて行かれて、

 お母さんが扉を開けた先に新しいお父さんと男の子がいた。


 お父さんは爽やかそうで、男の子は同い歳くらい。


 その子を見た瞬間、綺麗な黒髪だなって思った。


「ウチの息子です。君と同じ小5だよ。ほら早く挨拶しろ」

 お父さんが急かすと、


 男の子は私の顔を見て、無表情なまま面倒くさそうに、


「今日から義理の兄になる黒沢宙くろさわそらです」


 そう自己紹介をした。


「え? 義理の兄?」


「今日からここに一緒に住んで、苗字黒沢くろさわになるからね」


 この時、初めてお母さんが黒沢くろさわさんと再婚して、一緒に住むことを知った。


 私とそらくんは親の都合で義兄妹になった。


 だけど、


 私達は背中を向け合った状態で距離が縮まることはなく時は流れ、

 一ヶ月が経ったある日。


 家の近くで傷だらけのそらくんが右膝を立てたまま座っているのを見かけた。

 今まで会話なんてほとんどしてなかったし、スルーしようかと思ったけど、やっぱり放っておけなくて。


「一緒に家に帰ろう」


 手を伸ばすとそらくんはその手を掴んでくれて、

 私はそらくんを家に連れて帰った。


 居間でそらくんの顔や体の傷口を消毒して絆創膏をペタペタと貼る。


「手当てなんていいから」

「放っとけばこんな傷すぐ治る」


「私もそう思ってた。でも治んないよ」


 私の両目から大粒の涙が零れ落ちる。


「お母さんとお父さんが結婚してた頃は眠れてた」

「でも離婚して再婚した今は寝られない」

「ほんとうの家族なんてもう存在しないから」

「でも行く当てもないから、ここにいるしかない」


「大人なんか信じられない」


「俺も大切にされてなかった」

「俺だって眠りたかった」


 この日、私達は初めて本音を言い合って、

 やっと本物の兄妹になれた気がした。


 それなのに、


 3年目を迎える中2の夏、

 再婚同士のお母さんとそらくんのお父さんが離婚して、


 私達は離れ離れになった。


 そして、4月の入学式。

 月籠つきかご高校の受験を無事に合格出来た私はクラス分けの掲示板の前にいた。


「私、1年A組だ…あっ」


 1年A組の掲示板に黒沢宙くろさわそらの名前を見つけて、

 嬉しくて泣いた。

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