3


 あ、ローファー脱いだままだった…。


「ローファー履いてた時、つま先の部分踏まれたんだけど」

「つま先の部分まで足届いてなくて、なんとか脱げてセーフだったよ」


「そう。制服は? 濡れただけ?」


「あ、うん」


 せっかくそらくんと再会出来たのに、グレープフルーツ臭いなんて…。


「はー、良かった」


 そらくんは安堵あんどすると私の前に右足のローファーを置く。


「ほら履けよ」


「うん、助けてくれてありがとう」

 私はローファーに右足を入れる。


「総長、朝っぱらからシンデレラごっこかよ」

 銀髪の男の子が声をかけてきた。


 その子は左耳に輪のピアスを付け、黒のパーカーの上にグレーのブレザーを羽織っていて、

 隣には同じブレザーを着崩した右耳に玉のピアスの黒髪の男の子と、

 私と同じ制服を着た金髪のふわロングの毛先をピンクに染めて触覚を垂らし、前髪パッツンの大人びた女の子が立って私達を見ている。


「バカ、ここではそらだろ」

 黒髪の男の子がにっこり笑って言うと、銀髪の男の子はハッとする。


「あ、そうだった」


「ウチら先に行ってるねー」

 金髪のふわロングの女の子が手をひらひらと振る。


 3人とも行っちゃった…。

 同じクラスの子達…だよね?


 てか、“総長”ってワード2回目だ…あだ名か何かかな?


「あの、そらくん」


「何?」


「総長って?」


「あぁ。俺、今、暴走族鬼雪おにゆきの総長やってる」


「そうなんだ」


 ん?

 総長やってる?


 …………。



 えええええええええええええ!?

 暴走族の総長――――!?



「暴走族ってあの、特攻服着て、バイク乗ってパラパラァ~みたいな?」


「そう」


「さっきの子達は?」


「あー仲間」


 ええ!?

 あの子達も暴走族!?!?


「なんで総長に? 一緒に高校通う約束は?」


「同じ高校で同じクラスだけど族まとめるのに忙しくて今までサボってた」


 族をまとめる!?


「今はどこに住んでるの?」


「高校の近くのマンションで一人暮らし」


 一人暮らし!?


「お前はあのお袋と?」


 私の顔が暗くなる。

「あ、うん」


「そう。てかなんで、そんなボサボサ頭してんの?」


「目立ちたくなくて…」

そらくんこそなんで紫髪に?」


「お前、覚えてねぇの?」


「え?」


「まぁいいわ」

「今日から登校するから」


「ネックレスちゃんと付けててくれたんだな」


 あ、気づいて…。


「やっと会えたわ。長かったわ」


 うん、ほんとう、長かった…。


 そらくんはズボンのポケットからスマホを取り出す。

「初日から遅刻だけどな」


 あ……。


 ピキッ。

 私は氷のように固まる。


「はっ、なんて顔してんだよ」

 そらくんは私の右手を握る。


 あ、そらくんの手が触れて……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る