2


 そして、一時間後。私はうとうとした状態で駅の階段を上がっていく。


 階段何段あるの?

 ほんとう毎朝、つらい…眠いし…。

 あ、上まで着いた…このまま進も……。


 ――――ドンッ!

 私は誰かの肩にぶつかった。


「きゃっ!」


 ばしゃあっ!

 缶からグレープフルーツ味のサワーが飛び散り、私の制服や床が濡れた。


「あぁ? 何すんだよ?」

 赤髪の強面なヤンキーに物凄い顔で睨まれる。


 赤髪のヤンキー!?

 赤髪、初めて見た…大体金髪が多いし…じゃなくて。

 ヤンキーの腕も濡れてる……。


 どうやら私、ヤンキーが飲んでたサワーをぶちまけてしまったみたい…。


「なんか、あそこモメてね?」

「関わると怖いし、放っておこ」


 見てる大人も学生達も見事にスルー。

 誰も助けてはくれない。


 まさかの大ピンチ!?

 なんとか切り抜けて早く高校行かなきゃ…遅刻しちゃう!


「あの、ごめんなさ…」


「謝って済むと思ってんのかゴラァ! 弁償しろゴラァ!」

 赤髪のヤンキーが右足のローファーのつま先を踏む。


 やだやだ。

 怖い。


 私は右足をなんとかローファーから抜き、後ろに一歩下がる。


 ガクッ。


 え……。

 後ろ階段……。


 赤髪のヤンキーに胸ぐらを掴まれそうになる。


「嫌っ…」


 しまった、避け…。


 私は階段から落ちかかる。


 嘘でしょ……。

 このまま落ちたら、頭打って死……。


 まだそらくんと再会してないのに。

 約束、果たしてないのに。


 このまま会えずに終わるなんて絶対に嫌だよ。


 赤髪のヤンキーが一瞬、そらくんに見えて、右手を伸ばす。


 そらくん、お願い、助けて。



「危なかったな」



 ……?


 ……あ…れ?

 落ちて…ない?


 え……。


 いつの間にか、後ろから階段を駆け上がって来た誰かに体を支えられていた。


 着崩したグレーのブレザーに月籠のエンブレム。

 ブルーとグレーチェックのネクタイ。

 ネクタイと同じ柄のズボン。


 同じ高校の人?

 両耳にピアスまでして…。


 私は顔を見る。


 綺麗な紫髪の男の子……。

 かっこいい……じゃなくて。



雪乃ゆきの



 そらくん――――。



「ここにいろ」


 そらくんとの約束だけが私の心の支えだった。


 ずっとずっとそらくんを探してた。


 でも諦めかけてた。

 それなのに。


 そらくんが今、目の前にいる。

 泣かずにはいられない。


「はっ、女の子が落ちそうになってんのに全員見て見ぬふりかよ」

 そらくんは嫌味を言うと、赤髪のヤンキーを鬼の形相で睨みつける。



「で? 弁償がなんだって?」



「お、お前、鬼雪おにゆきの総長!?」

「すんませんでした!!」

 赤髪のヤンキーは血相を変え、慌てて逃げていく。


 え……。

 今、なんか凄いワード言わなかった?



雪乃ゆきの、右足、大丈夫か?」


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