3



 バイクは廃墟の前に運よく着地した。

 廃墟は派手なペンキで落書きされている。


 私は天川あまかわくんとバイクから降りるも、それが甘かった。


「ありすちゃん!」


「え?」


 背後の有栖ありすの親衛隊の一人に気づかず、天川あまかわくんが私を庇い、


 ――――ドカッ!

 背後から鉄パイプで頭を殴られた。

 天川あまかわくんは一瞬倒れそうになるも堪え、そいつの顎を殴り返す。


 カラーン。

 鉄パイプが地面に落ち、有栖ありすの親衛隊員は倒れる。


 天川あまかわくんも私の前で倒れた。


天川あまかわくん!」


 あ…天川あまかわくんの頭から血が出て……。


「俺はあの時…総長ひょうがに…殺されてても…おかしくなかった」

「でも総長ひょうがは…生かしてくれた…だから本望だ」

「ここは…俺に任せろ…! さっさと行け…!!」


 天川あまかわくん……。


 私は涙ぐみながらもコクンッと頷き、廃墟の中に入って行く。


 天井が少し壊れ、繊月せんげつが見える中、

 月沢つきさわくんと氷雅ひょうがお兄ちゃんは木刀を持ち、頭から血を流して見つめ合っていた。


 月沢つきさわくんは綺麗な白髪に両耳にはピアスをつけ、

 有栖ありすと背中に書かれた白の特攻服を着て、

 月のマークに有栖ありすの文字がついた指輪を左手の中指に嵌め、


 氷雅ひょうがお兄ちゃんは、さらっとした金髪に片耳にはピアスをつけ、

 黒雪くろゆきと背中に書かれた黒の特攻服を着て、

 ペンダントヘッドに雪のマークが付き、黒雪くろゆきと書かれたネックレスをつけている。


月沢つきさわくん! 氷雅ひょうがお兄ちゃん!」

 呼びかけると、ふたりは私を見るなり目を見張った。


「…ありす!?」


「なんでここに来た!?」

 月沢つきさわくんに続けて氷雅ひょうがお兄ちゃんが怒鳴る。


天川あまかわくんにバイクで乗せて来てもらったの」


天川あまかわだぁ!? あいつまた勝手なことしやがって!」

 氷雅ひょうがお兄ちゃんは声を荒げ、自分の前髪をぐしゃっと掴む。


「くそがっ! こんなことなら生かしておくんじゃなかったわ」


天川あまかわくんは何も悪くない! 私が頼んだの!!」


「とにかくありす、動くな! こっちに来るんじゃねぇ!」


「やだ!」

 私は氷雅ひょうがお兄ちゃんに強く言い返す。


 夏の夜風が吹いた。

 私が着て来た氷雅ひょうがお兄ちゃんの黒い特攻服の上着の裾がふわっと上がり、

 繊月せんげつの光に照らされ、金髪の髪が美しく輝く。


「私は黒雪くろゆきの総長の妹、ありす!」

黒雪くろゆき有栖ありすの全面抗争を止めに来たんだから!」


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