2

 思考が一瞬停止する。


 え……。


「冗談、ですよね?」


『てめぇ、バカか! 俺が冗談でこんな電話する訳ねぇだろ』


 嘘だ。

 嘘だ嘘だ。


『総長、出る前何か言ってなかったか?』


「出る前……」


 “…バイト、行って来る。ありす、勉強頑張れよ”


 あれは“全面抗争、行って来る。ありす、この先俺に何があっても勉強頑張れよ”って意味だったの?

 異様に優しかったのも、これで最後になるかもしれないから?


 月沢つきさわくんの『…心配するな』も

 “…心配するな、俺が必ず黒雪くろゆきを潰して生きて帰る”ってこと?


天川あまかわくん、お願いします! 今すぐ止めて下さい!!」


『無理だね。始まったらもう、“総長のどちらかが死ぬまで”は止まらねぇよ』


 私の両目から光が消える。


 そんな……。

 このままどちらかが死ぬのをここでただ黙って待ってるしかないの?


 私はぐっと自分の左手を握り締めた。


 そんなの絶対に嫌!

 諦めたくないよ!!


 “…上手く行かせるしかない”

 月沢つきさわくんの言葉が脳裏を過ぎる。


 …そうだ、月沢つきさわくん、そう言ってた。

 だったら私は――――。


天川あまかわくん、ふたりが戦ってる場所に連れて行って下さい」


『何言ってんだ? 死ぬぞ』


 “どうかこの先何があろうとも生きて、怜王れおと幸せになってくれ”

 のぞむ先輩に電話でそう言われた時、私は“はい”って約束したの。

 だから。


 夜空の繊月せんげつがまるで背中を押すかのように強い光で私を照らす。


「私は絶対に死なない」

「生きて有栖ありす黒雪くろゆきもどっちも守ってみせます」


『あー、俺また総長にボコられんだろうな』

『いいよ。住所教えて。迎えに行く』



 そして30分後。私はマンションの前に迎えに来た天川あまかわくんの黒いバイクに乗って森の廃墟の近くまで辿り着いた。


 白いバイクと黒いバイクが集まる中、

 有栖ありすと背中に書かれた白の特攻服と黒雪くろゆきと背中に書かれた黒の特攻服を着た族、合わせて40人程が戦っていて、廃墟の入り口がまるで見えない。


 ハニーブラウンの髪に白の特攻服の三月みつきくんは金属バッド、

 黒髪に黒の特攻服の飛高ひだかくんは木刀でナンバー3同士ぶつかり合っていて、


 さらさらな黒髪で白の特攻服の夜野やのくんはナンバー2の誇りと意地で素手、

 彼女であり、肩までのピンクブラウンの髪に白の特攻服の夕日ゆうひちゃんは鉄パイプで黒雪くろゆきの特攻隊長、奇襲隊長とやり合っている。


きょう!?」


「ありす!?」


 飛高ひだかくんと夕日ゆうひちゃんがバイクに乗った私達を見て驚きの声を上げた。


「ありすちゃん来ちゃだめだ!」


怜王れおの為にも今すぐ帰れ!」


 三月みつきくんと夜野やのくんが続けて叫ぶと、


「ごちゃごちゃうるせぇな!」

 クリーム色の髪をし、黒の特攻服を着た天川あまかわくんがキレて、私の体がびくつく。


「ちゃんと掴まってろよ」


「はい」

 短く答えると、天川あまかわくんの腰に両手を回したままもっと密着する。


 夜野やのくんを含めた4人が、もがき苦しみながらやり合う中、天川あまかわくんはバイクで突っ込み、族同士の隙間を走り抜け一緒に前に進んでいく。


 すると廃墟まで半分程の場所にジャンプ台のような大きな石が落ちていて避けきれず、上に乗り上げ、そのまま大ジャンプする。


「きゃあっ!」

 私の悲鳴が響く。

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