Ice lolly11⋈絶対、渡さねぇ。

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 傍にいられたらそれだけで良かったのに!

 お願い、ふたりとも行かないで。

 私の傍にいて笑っててよ。



 7月17日の夜。私は部屋で椅子に座って勉強していた。


 昨日はあれから着替えて結局、氷雅ひょうがお兄ちゃんと一緒に高校に行ったけど、月沢つきさわくんは体調不良でお休みだった。

 夜野やのくんは2人とタクシーに乗った後、高校まで戻ってバイクで先生達にバレずに帰れて、

 朝、高校で白瀬しらせ先生に色々問い詰められて大変だったみたいだけど、優等生ってことでなんとか乗り切れたらしい。


「……月沢つきさわくん、大丈夫かな」


 今日もお休みで、

 『…心配するな』ってライン返ってきたけど…。


「ありす、入るぞ」

 金髪の氷雅ひょうがお兄ちゃんが部屋にアイスコーヒーを持ってきてくれた。


「え、クリーム入ってる!?」


「お前、甘ぇの好きだろ? 今日は特別だ」


氷雅ひょうがお兄ちゃん、ありがとう」

 椅子に座ったままお礼を言うと、氷雅ひょうがお兄ちゃんは肩を包み込むように右腕でバックハグしてきた。

 突然のことに頭がパニックになる。


「…え、え、氷雅ひょうがお兄ちゃん?」


「…バイト、行って来る。ありす、勉強頑張れよ」

 氷雅ひょうがお兄ちゃんは耳元で囁くと右腕を離し、部屋から出て行った。

 ぱたん、と閉まる部屋の扉。


 顔が熱い……。

 今の、なんだったの?


 私はアイスコーヒーを一口飲む。


「甘っ…」


 ……まぁいっか、勉強しよう。


 私は引き続き勉強して、一時間後。深夜になった。


 月沢つきさわくん、ベランダにいるかな?


 勉強を止め、スマホを持って椅子から立ち上がると、


 シャッ!

 カーテンを開けリボンで留めて、ガチャ、と鍵を外し、


 ――――ガラッ。

 私は扉を開けて飛び出す。


 隣のベランダは真っ暗で人がいる気配はなく、仕切り板の穴を覗いて見ても月沢つきさわくんの姿はなかった。


 まだ体調悪いのかな……。

 よし、電話してみよう。


 スマホの着信音が鳴った。


 え、非通知!?

 間違え電話か何かかな?


 私は恐る恐る出てみる。


「も、もしもし?」


『ありすちゃん?』


 この声は……。


天川あまかわ…くん…?」


『そうだよ』


「なんで番号知って……」


『あー、前に総長のスマホ、ロック解除されてたことがあってこっそり?』


 天川あまかわくん、怖い……。


「それで私に何の用ですか?」


『始まったから伝えておこうと思ってね』


「始まった? 何がですか?」


有栖ありす黒雪くろゆきの全面抗争』


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