3

 月沢つきさわくんはそう言い切ると、


 ドサッ……。

 私を抱いたまま背中から倒れる。


怜王れお!」

「ありす!」

 三月みつきくんと夕日ゆうひちゃんが続けて叫ぶ。


月沢つきさわく…しっかりして…」

月沢つきさわく…」


 あ……また頭がふわっとして……。


「おい、お前らそこで何をやっている!」

 見回りの白瀬しらせ先生に見つかった。


 え…… 白瀬しらせ…先生?


「まずい! 夕日ゆうひ凜空りくを頼む!」


「分かったわ。でもしょう1人で2人抱えて大丈夫!?」


「ナンバー3をなめんなよ」

 三月みつきくんは私達を抱き起こす。

 そして右肩に私、左肩に月沢つきさわくんの腕を乗せて立ち上がる。


夕日ゆうひ、走るぞ!」


「うん!」


 三月みつきくんは私達を、夕日ゆうひちゃんは夜野やのくんを肩に抱えたまま走り出す。


 そして校舎の中を通ってなんとか抜け穴を抜け、正面玄関の前に出ると、ワゴンタクシーが一台停まっていた。


「え、ワゴンタクシー!? しょうが呼んだの!?」


「は!? 俺は呼んでねぇ」


「逃がさないぞ!」

 白瀬しらせ先生がそう叫び後ろから追いかけてくる。


「もう乗っちゃえ」

 夜野やのくんを先に乗せると夕日ゆうひちゃんも乗り込み、中央の座席に座る。


 三月みつきくんも私達を乗せると自分も乗り込んで、3人で1番後ろの座席に座った。


 タクシーの男の運転手さんが目を見開く。

「おい、君達!?」


「…あ? てめぇ何見てんだ? 早く出せ」

 夕日ゆうひちゃんが悪魔のような表情で言うと、


「ひゃい」

 タクシーの運転手さんが裏返った声で答え、タクシーが走り出す。


 白瀬しらせ先生は追いかけるのを諦め、ワゴンタクシーをただ見つめていた。


 夕日ゆうひちゃんは、ほっと胸を撫で下ろす。

「間一髪だったね~」


「それはいいけど、このタクシー誰が呼んだんだよ?」

 三月みつきくんが問うと、


羽鳥はとり様から配車を頼まれました」

 タクシーの運転手さんが運転しながら答える。


「え、のぞむ先輩!?」

 夕日ゆうひちゃんが驚きの声を上げた。


「マジか。近くで見ててくれたんかな」

 三月みつきくんがそう言うと、

 私達は切なげな顔を浮かべる。


 のぞむ先輩……。


「それで何処に行きましょうか?」

 タクシーの運転手さんが尋ねると、夜野やのくんが口を開く。


夜野やの病院で」


 私と夜野やのくん以外の3人が驚く。


 夜野やの病院…?


「…ゴホッ、お前いいのかよ。親父と気まずいんじゃねぇの?」

 月沢つきさわくんが問う。


 え、夜野やのくんのお父さんの病院…!?


「あぁ、気まずいね。だから優等生のフリよろしく」

 夜野やのくんがそう言うと、月沢つきさわくんと夕日ゆうひちゃんは黒のウィッグを被る。


 私、ウィッグ被ってて良かった……。


 そう思いつつも悲しい気持ちになり、ぎゅっと月沢つきさわくんの手を握った。


「はい、しょうも」


「すげえ、夕日ゆうひサンキュー」

 三月みつきくんは黒のウィッグを受け取って被る。


「…星野ほしの、大丈夫か?」


「うん、大丈夫だよ」


 ぼんやりと夜景が私の両目に映り、通り過ぎていく。


 ねぇ、月沢つきさわくん、

 私達は偽らないと生きていけないのかな?


 なんで、ありのままじゃだめなんだろう。



「…点滴で腕痛ってぇ」

 1時間後。治療室から出て来た月沢つきさわくんが言った。


「総長でも痛がるんだな」

 三月みつきくんが、にこにこしながら言うと、


「うるせぇ」

 月沢つきさわくんは冷たく返す。


「…星野ほしのは腕大丈夫か?」


「うん、点滴打ってもらったら楽になったよ」


「…そう、俺も。後は薬飲めば治るって言われたわ」


「私も」


「…凜空りくは?」


 私は待合室のソファーを見る。

「あそこでみぞうち冷やしながらお父さんと話してる」


 月沢つきさわくんと三月みつきくんもソファーを見た。


「久しぶりに顔を見せたかと思えばお前は一体何をやっているんだ?」

 白衣を着た夜野やのくんのお父さんが問いただす。


「何って人助けだよ」


「友達が不良に絡まれたのを良いことに喧嘩をすることがか?」

「お前はこの病院の跡取り息子だという自覚が足りていないようだな」

「恥を知れ」

 夜野やのくんのお父さんは冷酷な表情でそう言うと診察室に戻っていく。


「…凜空りく、大丈夫?」

 隣に座った夕日ゆうひちゃんが心配そうな表情で尋ねると、


 夜野やのくんは、にこっと笑う。

「あぁ、慣れてるから」


 夕日ゆうひちゃんは夜野やのくんをぎゅっと抱き締める。

「…傷つくことに慣れないでよ」


 夜野やのくんは静かに涙を流した。


 そして夜野やのくんが落ち着いた後、三月みつきくんがタクシー2台を呼んだ。


「ありすちゃん、今日はごめんね」

 夜野やのくんが謝ると私は首を横に振る。


「じゃあ怜王れお、またな」


「ありす、またね」


 三月みつきくんと夕日ゆうひちゃんはお別れの挨拶をして、

 夜野やのくんも月沢つきさわくんとアイコンタクトをした後、3人で前のタクシーに乗った。


「… 氷雅ひょうがは?」

 月沢つきさわくんが尋ねてきた。


「スマホ見たけど、まだ何も届いてないから大丈夫」


「…そう。なら早く帰ろう」


「うん…」


 まだ、帰りたくないのに…。


 一緒に後ろのタクシーに乗ると扉が閉まり、タクシーが動き始めた。


 やだ、やだよ。

 進まないで、停まって。

 月沢つきさわくんと一緒にいたいよ…――――。


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