4
――――今、分かった。
“
「本物の兄貴になって守ってやりてぇって、金髪に染めたあの日からずっと」
「だから」
「お前が泣いてんの見るとたまんねぇんだよ」
――――グイッ!
右腕を掴むと
「え、え、
ドサッ……。
え…ベッドに押し倒されて……。
「もう兄貴じゃねぇ」
あぁ、
すごくすごく大事。
だけど、
私、
“…ほどいて欲しかったの、俺じゃなかったんだな”
見えないのに、鞄の中のアイスキャンディーがタオルの中で溶けていく感じがした。
私の両目から光が消える。
それに、ここで拒んだら
下手をしたら殺されるかもしれない。
それだけで体がびくついた。
「……ありす」
「嫌なら全力で拒否れ」
こんなこと、言わせるなんて。
私、ほんとにひどくて、悪い偽者の妹だ。
「…ありす?」
私は涙を零しながら満面の笑みを浮かべた。
「……いいよ」
「心に絡まったリボンほどいて」
しゅるっ。
ギシッ…。
大丈夫。
きっと、ぜんぶ気持ち、受け入れられる。
ふわっ。
ぶっきら棒なキスされるって思ってたのに、
なんて甘くて優しいキスなんだろう。
唇が離れて、またキスが降ってきて。
涙が止めなく流れる。
何度キスされても拒否れない。
ぜんぶ受け入れるって決めたから。
…ううん、それだけじゃない。
だってキスから痛いくらい伝わってくるんだもん。
私のことが“大事で大好き”だって。
「ん…ぁっ……」
深く、甘く、絡まる。
「ふあっ……」
も、だめ…。
だけど言えない。
私は我慢して、ぎゅっとグレーの長袖Tシャツを掴む。
「……っ」
やばい、息が上手く出来ない。
「はぁっ…
あ…、髪、くしゃくしゃっと撫でられ…。
それだけで呼吸が落ち着いていく…。
「ありす、大丈夫だ」
「こんくれぇで、どうにかなったりしねぇから」
呼吸が落ち着くと、
「…!」
右肩が出ると、
あ……
「下手くそが」
え?
「消さねぇよ」
「お前の大事なもんは全部受け入れる」
光が両目から零れた。
その瞬間、鞄の中のアイスキャンディーがタオルの中で完全に溶けた気がした。
ふ…っ。
目の前が真っ暗になり、私は意識を失った。
*
……あれ?
電車の中……?
「なんで同じ制服着て…」
「寝ぼけてんのか?」
「
「だからお前が一緒に帰ろうっつったんじゃねぇか」
あぁ、そっか、これ、夢だ。
「ありす、目閉じろ」
「え、ここで?」
「やっぱしねぇ」
あ、唇に甘いキスされ……。
「んっ…」
いいなぁ、こういう未来だったら良かったのに。
どうして私達は血の繋がってない兄と妹なの?
偽者の兄と妹なの?
どうしてよぉっ…!!!!!
「…ありす?」
「なんで泣いて…」
私と
分かってるくせに、
私はキスを受け入れた。
ずるくて汚い私。
こんな自分なんて嫌い。
大嫌いだよ。
でももう、一度壊れた関係は元には戻らない。
「こんなの、間違ってる」
男の
偽りでもいいから、
兄と妹としてずっと一緒にいたかったよ。
「傷つけてごめんね、
*
7月14日の朝。目を覚ますと
え、もう朝?
なんで一緒に寝て……。
あ…そっか、私、途中で意識飛んで眠っちゃったんだ……。
眠っちゃう前は一緒に寝てなかったはずなんだけど、どうしてこんなことに……。
あんな夢見たせいか、
「んんっ…
「…!」
やばい、起きる!?
気まずい。
寝たふりしよう。
「……もう朝か」
「…ありす、まだ寝てんのか」
どうしよう、
「泣いてんじゃねぇよ」
「もう何もしねぇから心配すんな」
「…やべぇ、バイトの時間だから行くわ」
私はぎゅっとグレーの長袖Tシャツの袖を掴む。
あ……。
起き上がり、ベットから降りて少し歩くと
「…夜には帰るから朝飯と昼飯は自分の好きなの食え」
ぱたん、と扉が閉まる。
私はベットからゆっくり起き上がって降りると、鞄のファスナーを開けタオルを見る。
包んだ袋はぐにゃぐにゃで中のアイスキャンディーは完全に溶け切っていた。
私は鞄を開けたまま学習机の卓上ミラーを見る。
金髪を退けるとうなじが映った。
あ…
隣に
見ていられなくて卓上ミラーを倒し、鞄のファスナーを閉め、再びベットに横たわる。
私はベットの上で静かに泣いた。
*
そして気づけば夜になっていた。
朝と昼は食べる気になれなくてマスカット味の飲むゼリーで済ませたけど、
このまま帰って来なかったらどうしよう。
ガチャッ。
玄関の扉が開く音が聞こえた。
良かった……。
そう思うも顔を合わす気になれず、部屋から出られない。
「…ありす、起きてるか?」
「……うん」
「すぐ晩飯作る」
それから30分経っても
おかしいな…いつもならもう呼びに来てるのに…。
あ、もしかしてまた倒れて……。
私は扉を開け、キッチンまで早足で歩いて行く。
カレーの香り?
鍋の蓋を開けるとカレーが入っていた。
カレーはしゃびしゃびで、炒めて煮た豚こま切れ肉に玉ねぎとえのきだけが入っていた。
これ、
居間のテーブルを見ると手紙が置いてあった。
私は右手に取って見る。
『ありす、本当は俺も金髪のお前が嫌だった。
前にも話したが、俺は天涯孤独で聖アイス教会の前で捨てられ、お前の両親に拾われた。
綺麗な黒髪だったからだ。
お前さえ生まれて来なかったら俺は黒髪のまま両親に愛され、
自分を偽って生きなくて済んだ。
自分を偽って生きるのがたまらなく嫌だった。
だからこれからは
お前とは血の繋がりがねぇ。
一緒にいても偽物なのは変わらねぇ。
俺達はただの他人だ。
ありす、
お前はもう暴走族とは関係ねぇ。
お前はお前の人生を生きろ。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます