Ice lolly8⋈大嫌い、なのに。

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 大嫌い、なのに、

 こんなことしないで。

 もっと、好きになっちゃうよ。



 小学6年の凍るような寒さの冬の夜。


 私は中学1年の氷雅ひょうがお兄ちゃんと裏道を歩いていた。


 胸元に施されたひらひらと可愛いフリルの上にリボンが付いた紺色のコートに黒ブーツを履いた私の隣を、

 黒のロングTシャツの上に、逆立つ毛の帽子が付いたシルバーグレーのジャケットを羽織りズボンを穿いた氷雅ひょうがお兄ちゃんが歩く。


氷雅ひょうがお兄ちゃん、縫いぐるみ取ってくれてありがとう」

 ぎゅっと白兎の縫いぐるみを抱き締めながら言うと、


 氷雅ひょうがお兄ちゃんは頭をぽんっと叩く。

「またゲーセンで取ってやるよ」


 ブォオン

 ブォオン

 ブォオオオンッ!


 走ってくるバイクの眩しい光が私達の全身を照らす。


 7台のバイクに囲まれた。


 え……。


「金髪とかイカしてんね」

「今から俺らと遊ばない?」

 銀出冷羅ぎんでれらと背中に書かれたグレーの特攻服を着た銀髪の男の子が私に向けて言うと、

 氷雅ひょうがお兄ちゃんはキッ! とその男の子を睨み付ける。


「あ? なんだよ、その目はよ」

「こっちは褒めてやってんのに」

「喧嘩売ってんのか? あ?」


 銀髪の男の子はバイクから降り、氷雅ひょうがお兄ちゃんの腹に拳をかました。


「がはっ…」

 氷雅ひょうがお兄ちゃんはその場で崩れ落ちる。


氷雅ひょうがお兄ちゃん!」


「よっわー、じゃあ行こっか」

 銀髪の男の子は私の体を持ち上げ、バイクの後ろに乗せる。


 私は左手で白兎の縫いぐるみを抱きながら右手を伸ばす。

「やっ、やだっ」

氷雅ひょうがお兄ちゃん、たす、けて」

氷雅ひょうがお兄ちゃんっ!!!!!」


 氷雅ひょうがお兄ちゃんは起きて立ち上がると、銀髪の男の子の腹を思い切り蹴飛ばした。


「うっ」

 銀髪の男の子が腹を押さえて地面に疼くまる。


 そしてバイクの後ろに乗った私を抱き上げる。


 私は氷雅ひょうがお兄ちゃんの首に両手を回す。

氷雅ひょうがお兄ちゃん」


「もう大丈夫だ。目瞑ってろ」


「うん」


「よくも兄貴を!」

「許さねえええええ!!!!!」

 バイクから銀出冷羅ぎんでれらと背中に書かれたグレーの特攻服姿の6人が一斉に降り、木刀で氷雅ひょうがお兄ちゃんに襲い掛かる。


「俺のそばを離れるなよ」

 氷雅ひょうがお兄ちゃんは私を地面に下ろすと、

 6人の木刀を寸前のところで交わしながら蹴りと拳で一人ずつ倒していき、6人とも地面に這いつくばった。


「もうお終いか?」

「たしたことねぇな」


 木刀を拾い、2人が起き上がる。

「くそがあああああ!!!!!」


 襲い掛かってくると氷雅ひょうがお兄ちゃんは2人を右足で蹴り飛ばし、2人は動かなくなった。


「よくもやりやがったな! なめやがってええええええ!!!!!」

 銀髪の男の子は起き上がると狂い叫び、殴りかかってくる。


「遅ぇよ」


 バコッ!

 氷雅ひょうがお兄ちゃんは右の拳で顔面を殴り飛ばす。


「がはっ」

 銀髪の男の子は地面に倒れ、気を失った。


氷雅ひょうがお兄ちゃ…」


 私は氷雅ひょうがお兄ちゃんの顔を見る。

 氷雅ひょうがお兄ちゃんは血だらけで冷酷な表情をしていた。


 あ……。


 ドサッ……。

 私はショックでその場に倒れる。


「ありす!」

「おい、しっかりしろ!!」

「ありす!!!!!!」


 氷雅ひょうがお兄ちゃんの私を呼ぶ声が何度か聞こえる。

 だけど起きられない。


 黒髪の男の子が近づいて来た。

 男の子は背が高く、パーマをかけたショートボブの髪型をしている。


「一人で全員倒すとは素晴らしい」


 え、誰?

 俺様で荒い感じ…。


「誰だ?」

 氷雅ひょうがお兄ちゃんが問う。


「俺は暴走族黒雪くろゆき初代総長、黒坂翼輝くろさかつばきだ」

「お前、名は?」


「俺は星野氷雅ほしのひょうがだ」


「そこの倒れた子は?」


「妹のありすだ。お前もこいつらと同じなら殺す」

 氷雅ひょうがお兄ちゃんが冷酷な目でそう言うと、黒坂くろさかは不敵な笑みを零す。


「気に入った」

「お前、俺の物になれ」

氷雅ひょうが


「何言ってやがる、俺は…」


「冷酷な目」

「お前には素質がある」

「いずれお前は総長になるだろう」

「総長になれば妹をもっと余裕で守れるくらい強くなれる」

「どうだ?」


 氷雅ひょうがお兄ちゃんが総長?

 よく分からないけどだめ。

 だめだよ、氷雅ひょうがお兄ちゃん。

 総長になんか、なっちゃだめだよ。

 そう言いたいのに声が出ない。


 氷雅ひょうがお兄ちゃんは、フッと笑う。

「悪くねぇな」

「ありすを守れるなら、暴走族黒雪くろゆきに入ってやるよ」


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