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 あぁ、やっぱり、そうなんだ。


 私の顔が今にも泣き出しそうな顔に変わる。


 月沢つきさわくんは暴走族有栖ありすの総長なんだ。


「2代目? 初代は…?」


「…のぞむ先輩」


 え……のぞむ先輩が初代の総長!?


天川あまかわくん達は…?」


「…敵の暴走族」


 え、天川あまかわくん達も暴走族だったの!?


「…のぞむ先輩は天川あまかわ達の暴走族と抗争になった時、そこの同級生の初代総長との相打ちで怪我をして警察に捕まって退学にされた」

「…今は少年院から出て保護観察中だ」

「…俺が高2になる時に総長の座を渡された」


 “…のぞむ先輩が一人にはしてくれなくて”

 “…俺が高2になる前までずっと一緒だった”


 月沢つきさわくん前に屋上でそう話してくれたけど、まさかこんな理由だったなんて――――。


「高2の春から不登校になったのも…総長になったから?」


「…あぁ」


「私に白いサワー味のアイスキャンディーくれたのはなんで?」


「…お前の金髪に惹かれたから」

「…渡してからお前の名前が暴走族の名前と同じ“ありす”だって分かって、ますますお前に興味を持った」

「…けど引くよな。怖いよな。俺が総長なんて」


「っ…」


「…それでも俺はお前と青春したかった」

「…お前の隣に一秒でも長くいたかった」

 月沢つきさわくんは切なげに笑うと、部屋に向かって歩いて行く。


「待って」

「行かないで、月沢つきさわくん…!」

 私は仕切り板の穴から叫ぶ。


 ガラッ、ピシャンッ。

 月沢つきさわくんは自分の部屋の中に入って行った。


 私はその場で崩れ落ちる。


 総長って小説の中だけかと思ってた。

 実際にいたなんて。

 しかもそれが月沢つきさわくんだったなんて。


 私は両手で顔を隠す。


 二十六夜の月はもう見えない。


 大粒の涙でゆるTシャツが濡れていく。


 もう私達終わりなの?

 このまま別れるしかないの?


 ねぇ、月沢つきさわくん、

 これからどうしていいか分からないよ――――。



 7月12日の夕方。私は高校帰りに孤独に裏道を歩いていた。


 教室に残ってずっと勉強してたけど、

 結局、月沢つきさわくんには一度も会えなかったな……。


 氷雅ひょうがお兄ちゃんとの約束を完全に破って、

 秘密で付き合ってるのも許されないのに、

 彼氏が暴走族の総長だって、もしも氷雅ひょうがお兄ちゃんにバレたら……。


 私の顔がサァーッと真っ青になる。


 帰りづらいな。

 ちょっとだけ寄り道…でもいつもより遅いし氷雅ひょうがお兄ちゃん心配するかも…。

 やっぱり、このまま駅まで歩いて電車に乗って帰ろう。


 ブォオン

 ブォオン

 ブォオオオンッ!


 走ってくるバイクの眩しい光が私の全身を照らす。


 私はびっくりして足を止めると10台のバイクに囲まれた。


 え、何!?


 クリーム色の髪に甘い顔。


「ありすちゃん、やっと会えたね」

 黒の特攻服を着た天川あまかわくんがにこっと笑う。


 天川あまかわくん!?


 天川あまかわくんはバイクから軽やかに降りる。


「2日前は俺の下っ端の速水はやみ桃原ももはら、可愛がってくれたみたいで」

「おかげでサツに連れて行かれて終わったよ」


天川あまかわくんは敵の暴走族なんだよね…?」

 私は恐る恐る問う。


月沢つきさわに聞いたんだ?」

「そうだよ。こいつらは俺の下っ端で」


 天川あまかわくんは前髪をき上げる。

「俺は暴走族黒雪くろゆきのナンバー2天川鏡あまかわきょうだ」


 暴走族黒雪くろゆきのナンバー2!?

 そっか、だからみんな黒の特攻服の背中に黒雪って書かれてるんだ…。


「だからありすちゃんには悪いけど消えてもらうよ」

 天川あまかわくんはポンッと私の体を前から押す。


 私はその場に倒れる。


 起き上がると、天川あまかわくんは私の前にしゃがむ。


「あいつの女じゃなかったら俺のにして抱いてやったのに。ごめんね」

 天川あまかわくんは、にこっと笑う。


 私の血の気が引いていく。


「あ……」

「た、たす…」

「たすけて、月沢つきさわくん!!」

 私は涙をこぼしながら叫ぶ。


「あーうぜえ! あいつの名前呼ぶんじゃねぇよ!!」

 天川あまかわくんは、バッ! と私のウィッグを取る。


 天川あまかわくんは両目を見開く。


「は……? 金髪!?」

 天川あまかわくんが驚きの声を上げると周りの下っ端達もざわめく。


 私は両手で髪を隠し、ぎゅっと両目を閉じる。


 やだ。

 やだやだやだ。

 月沢つきさわくんだけじゃなくて、天川あまかわくん達にも知られちゃった……。


 ブォオン

 ブォオン

 ブォオオオンッ!


 バイクが2台走ってきた。


「総長!」

 天川あまかわくんが叫ぶ。


 え、総長!?


きょう、何勝手に動いてやがる!」

 総長の怒鳴り声が響く。


 あれ?

 この声どこかで……。


 私は総長を見る。


 さらっとした金髪に整った顔。

 片耳にはピアスをつけ、

 黒雪と背中に書かれた黒の特攻服を着て、

 ペンダントヘッドに雪のマークが付き、黒雪と書かれたネックレスをつけている。


氷雅ひょうが…お兄ちゃん?」


「ありす…」

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