3


「…星野ほしの

 その日の深夜。月沢つきさわくんがベランダの仕切り板の穴から話しかけてきた。


 月沢つきさわくんは白髪で、ネイビー色のTシャツに黒のTシャツを重ね着し黒のスキニーパンツを穿いていて、


 私は黒のウィッグを被り、裾にリボンがついたオフホワイトのゆるTシャツに短パンを穿いている。


 仕切り板があって良かった。

 冷静に話せそう。


月沢つきさわくん、朝はごめんなさい」


「…今日は謝ってばっかだな」

「…なんで避けんの?」


「夜の保健室で月沢つきさわくんと一緒にいてから」

「その意識しすぎちゃって……」


「…それは見てて分かった」


「え……」

 私の顔が、かぁぁっと熱くなる。


「…でもそれだけじゃないだろ?」

「…ウィッグ取ったの後悔してるんじゃないのか?」


「罪悪感は…ある。だけど後悔はしてないよ」


「…そう」

「…星野ほしの、俺に聞きたいことあるだろ」


「え?」


「…倒れる前からずっとそんな顔してる」


 ずっと聞きたかった。


 でも聞きたくなかった。


 聞いてしまったら関係が終わってしまう気がして、

 怖くて、とても怖くて。


 だけど、


 あぁ、もう、

 聞くしかないんだ。


「捕まってた時」

速水はやみくんのスマホに天川あまかわくんから電話がかかってきて聞いたの」


「…何を?」


 私はぎゅっと自分の右手を握り締めて拳を作り、仕切り板の穴から月沢つきさわくんを見つめる。


「ねぇ、月沢つきさわくんは本当に暴走族有栖ありすの総長なの?」


 月沢つきさわくんは両目を見開く。


「…違う、よね?」

「ただの噂とか…」


「…星野ほしの


天川あまかわくんが嘘ついて適当に言ってるだけだよね?」


「…星野ほしの!」


 私の体がびくつく。


 月沢つきさわくんは複雑な表情を浮かべ、自分の前髪に手の平を当てる。

「…あー、時間切れか」


 時間切れ?


「…ずっとバレなきゃいいって思ってたけど、そんなん無理だわな」

「…許してくんないよな」

「…そう、俺は」


 サァッ。

 優しい夏風が吹いた。

 綺麗な白髪がなびく。


 月沢つきさわくんは月のマークに有栖の文字がついた左手の中指の指輪を私に見せる。

 二十六夜の月の闇夜に指輪だけが美しく輝いた。


「暴走族有栖ありす2代目総長、月沢怜王つきさわれおだ」

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