Ice lolly7⋈ねぇ、嘘だって言ってよ。

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 どうして……?

 こんなの、知りたくなかった。

 ねぇ、嘘だって言ってよ。



「…どうしよう」

 私はマンションの部屋の前で迷っていた。


 あれから月沢つきさわくんのこと意識しずぎたのと氷雅ひょうがお兄ちゃんとの約束を完全に破ってしまった罪悪感に苛まれて結局一人で電車で帰って来たけど、もう20時。


 氷雅ひょうがお兄ちゃんに玄関の鍵開けてもらったけど入りずらい…。


 私は黒のふわロングのウィッグに右手で触れる。


 ずれてないよね…?


 ガチャッ。

 扉が開く。


 制服(薄いブルーの半袖シャツ)を着た氷雅ひょうがお兄ちゃんの姿が見えた。


 あ、天川あまかわくん達と同じ制服…。


 氷雅ひょうがお兄ちゃんの右手が伸びてきた。

 私はバッと避ける。


 氷雅ひょうがお兄ちゃんは両目を見開く。


 怖くて避けちゃった……。


 私は気まずいまま中に入る。


 ぱたんっ…。

 扉が閉まった。


「あ、氷雅ひょうがお兄ちゃん、遅くなってごめんなさ…」


 氷雅ひょうがお兄ちゃんは右手で自分の顔を隠す。

「ありす、無事で良かった」


 え、氷雅ひょうがお兄ちゃん泣いて…。


氷雅ひょうがお兄ちゃん…」

「心配かけて、避けてごめんなさい」

「ふ、不審者の男の子達が氷雅ひょうがお兄ちゃんと同じ制服着てて……」


 え、優しく抱き締められ…。


 あ…いつものほんのりスパイシーなシトラスの香り…。

 安心する……。


「ありす、俺がまだ怖いか?」


「ううん、もう大丈夫」


「そうかよ」

「…お前が怖がったり、保健室に行くってことはよっぽどだろ」

「電話の後、何があった?」


「…書庫蘭しょこら高校の男の子達が教室に来て」

「カーテンに隠れたけど見つかっちゃって……」


 氷雅ひょうがお兄ちゃんは頭をぽんっと優しく叩く。

「ありす、ゆっくりでいい」


「うん…それから…」

「腕を引っ張られて窓ガラスに押し付けられて」


 氷雅ひょうがお兄ちゃんは両目を見開く。


「リボンで両手を背中で縛ばれて……」


 私はぎゅっとセーラー服の胸の部分を掴む。


「クソがぁっ!」

「やっぱ電話の後、すぐお前の高校に行くべきだった」

「いや、お前が俺と同じ高校行くって言った時、来いって言ってればこんなことにはならなかった」

「同じ高校だったらすぐ飛んで行けて守れたのに」


 氷雅ひょうがお兄ちゃんはとても辛そうな顔をする。

「ありす、すまねぇ」


「謝らないで…氷雅ひょうがお兄ちゃんは何も悪くないよ」


 そう、悪いのは、


 私の両目から光が消える。


 氷雅ひょうがお兄ちゃんとの約束を完全に破ってしまったのに、

 こうやって抱き締められてる私だから。


氷雅ひょうがお兄ちゃん、私、部屋に…」


「今夜はもう離さねぇよ」




「…話って何?」

 7月11日の朝。屋上で右肩に鞄をかけた月沢つきさわくんが尋ねてきた。


 私は右肩にかかった鞄の紐をぎゅっと持ち、軽く頭を下げる。


「一刻も早く謝りたくて…」

月沢つきさわくん、深夜にベランダ行けなくてごめんなさい」


「…昨日帰るの遅かったし気にしてねぇよ」

「…それよりあいつとはちゃんと話せたのか?」


「うん、不審者の書庫蘭しょこら高校の男の子達に襲われたことだけは話したよ」

「そしたら…」


「…そしたら?」


「離してくれなくて…」

「寝る時も私がちゃんと眠るまでそばで見ててくれてて…」


「…あぁ、どおりで」


 サラッ……。

 月沢つきさわくんが私の髪に触れ、甘く囁く。

「…あいつの香りがすると思った」



 体の力が抜け、私はその場にぺたんと崩れ落ちた。


「…おい、星野ほしの、大丈夫か?」


「うん、大丈夫…」


 月沢つきさわくんが手を差し出してきた。

 私は手を伸ばす。


 あ、指が触れて……。


 バッ!

 私はすぐに手を引っ込める。


「…は?」


「あ、だ、大丈夫」

「自分で立てるので…」

 私はそう言って自分で立ち上がった。


 月沢つきさわくん、せっかく立ち上がらせようとしてくれたのに。

 き、気まずい…。

 それに……。


 “月沢つきさわくんが〜暴走族有栖ありすの〜総長だからに決まってんだろ”


 天川あまかわくんの言葉が脳裏から離れなくて――――。


 キーンコーンカーンコーン♪

 HRホームルーム前の予鈴が鳴り響く。


「…あ、教室戻るね」

 私はそう言うと屋上の扉を開け、階段を駆け下りて行った。


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