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 私の感覚が麻痺する。


 え……。

 月沢つきさわくんが、

 暴走族有栖ありすの総長?


「じょ、冗談はやめて下さい」

「ただの噂とか…ですよね?」

 私は恐る恐る聞き返す。


『てめぇ、バカか!』


 私の体がびくつく。


『せっかく現実教えてやってんのに』

『これだから本命作りたくねぇんだよ』


「じゃあ、天川あまかわくんも…?」


月沢つきさわに聞けば?』

『俺達のことよーく知ってるだろうし』

『でもまぁその前に』

『“ありすちゃん、さよなら”だけどね』


 え、さよなら?


『もう時間切れ。速水はやみ

 天川あまかわくんがそう言うと、速水はやみくんは私の右耳からスマホを放し、自分の耳にスマホを当て直す。


『てめぇら月沢つきさわの居場所突き止めたんだろうな?』


「まだっす」


『何やってんだ!?』

『女使って今すぐおびき出せ!』


 電話がブチッと切れた。


「そーいうことなんで、ごめんねー」

桃原ももはら


 桃原ももはらくんが私のセーラー服をめくる。


「きゃっ」


「おお、なかなかいいな」

 桃原ももはらくんはそう言うと白いブラのリボンを人差し指で触れた。


「ゃっ…」


月沢つきさわくーん、彼女泣いてるよー」

「早く出て来ないとヤラれちゃうよー?」

 速水はやみくんが楽しそうに呼ぶ。


 血の気がみるみる内に引いていく。


 赤羽あかばねくんの時は夕日ゆうひちゃんに伝わったから夜野やのくん達に助けてもらえたけど今日は……。


 私、このままヤラれちゃうの?

 そんなの、


 絶対に嫌だ。


 お願い、届いて――――。


月沢つきさわくん、たす、けて」


 ――――パタ。

 シューズの音が響いた。


 月沢つきさわくんが教室の中に駆け入ってきて、


 速水はやみくんの顔面目掛けて自分の鞄を思い切りぶん投げ、

 桃原ももはらくんを瞬時に突き飛ばす。


 ドゴッ!

 鞄は速水はやみくんの顔面に直撃し、


 桃原ももはらくんは教壇に背中をぶつけ、その反動で床に倒れる。

 その隙に月沢つきさわくんが私の右肩を抱えて後ろのロッカーまで移動する。


月沢つきさわ、てめぇ!」

 速水はやみくんは荒々しい声を上げ、月沢つきさわくんに鞄をぶん投げ返す。


 月沢つきさわくんは鞄をキャッチすると、


「…お前、誰?」

 速水はやみくんに無表情な顔で問う。


天川あまかわくんの友達って言ったら分かるよなぁ?」

「盗聴されてんのに気づかねぇなんてかっこ悪っ」

「女に現抜かしてるから気づかねぇんだよ」

 速水はやみくんは、ふっとあざ笑う。


「…あぁ、アレ? オモチャかと思ったわ」

 月沢つきさわくんが余裕な笑みを浮かべると、


 速水はやみくんは目を見張る。

「てめぇ、まさかわざとおびき出して…」


 優等生姿の夜野やのくんとハニーブラウンの髪をした三月みつきくんが教室の中に入って来た。


怜王れお、出入り口は押さえたよ」


「俺達が相手してやる。かかって来い」


 夜野やのくんと三月みつきくんが続けてそう言うと、


「てめぇら、なめやがってえええええ!」


 速水はやみくんと起き上がった桃原ももはらくんが狂い叫び、夜野やのくんと三月みつきくんに殴りかかる。


 夜野やのくんと三月みつきくんは拳を受け止め、2人を机に投げ飛ばす。


 殴り合いの喧嘩が始まった。


「見つけたぞ!」

「何やってる!!」

 駆けて来た男の先生達が叫び声を上げて教室に入ってくる。


「チッ」

 桃原ももはらくんが舌打ちし、


「引き上げるぞ」

 速水はやみくんは桃原ももはらくんを連れ、廊下に出ようとする。


「取り押さえろ!」

 男の先生達が叫ぶと夜野やのくん達と一緒に2人を取り押さえた。


「くっそおおおお!!」


 速水はやみくん達は4人に連れられて行く。


 両足の力が抜け、ぺたん、と床に崩れ落ちる。


「…星野ほしの!」


 月沢つきさわくんはしゃがみ、


 しゅるっ。

 背中で縛られた両手のリボンをほどいてくれた。


 月沢つきさわくんは私の頭をぽんっと叩く。

「…もう大丈夫だ」

「…悪いな、巻き込んで」


 巻き込む?


「…………」

 私は黙る。


「…星野ほしの?」


 ねぇ、月沢つきさわくん。


 ウィッグから汗が垂れ、

 私の顔が今にも泣き出しそうな顔に変わる。


 月沢つきさわくんは本当に、

 暴走族有栖ありすの総長なの?


 くらぁっ…。

 前に倒れ、月沢つきさわくんが私を抱き締める。


「…おい、星野ほしの!」


「はぁっ、はぁっ…」


「…体が冷たくなってる。マズいな」


 月沢つきさわくんは首に手を回させ、私の腰に手の平を当てる。

 もう片方の手で足を持ち上げ、そのまま私をお姫様抱っこすると教室から出た。


 …違う、よね?


 両目を閉じると、睫毛から涙が零れ落ちる。


 月沢つきさわくんは暴走族有栖ありすの総長じゃないよね――――?


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