2

 とっさにウィッグを取られないよう、両手で触れると、

 月沢つきさわくんは、その手を退ける。


「あ…………」


 月沢つきさわくんにはもう金髪のことバレてて、

 一度だけ氷雅ひょうがお兄ちゃんとの約束破ってる。

 それでも――――。


「まだ、だめ…取らないで…」


 月沢つきさわくんは、ぽんっと頭を優しく叩く。


「…そんな必死に守んなくても」

「…あいつとの約束大事なの分かってるし」

「…取らねぇから」

「…まだ」


「まだ?」


「…完全に破る覚悟が出来たら言って」

「…そん時、取ってやる」


「うん…」

 短く答えると、月沢つきさわくんは熱が引き、息が正常に戻るまで私の背中を優しく撫でてくれた。



「…え? 今なんて?」

 時間が過ぎ、昼休み。中庭で夕日ゆうひちゃんが聞き返してきた。


 中庭でも奥の木陰なので、みんなから姿は見えない。


 4限の終わりに月沢つきさわくんから、


『…凜空りく達と飯食うことになった』

『…昼、中庭で。鞄持って来なかったら金髪のことバラす』


 と脅…誘われ、鞄ごとお弁当を持って来たのは良いけど……。


「…星野ほしの、俺の彼女になった」


 私はびっくりして固まる。


 まさか、夕日ゆうひちゃん達にまで言ってくれるなんて。


「…そ」


「へぇ」


「ふぅん」


 夕日ゆうひちゃん、夜野やのくん、三月みつきくんが順番に言う。


 みんなテンション低い……。


「…星野ほしの

「…凜空りくしょう夕日ゆうひも寝不足なだけだから」

「…俺含めてな」


「寝不足…」


 “…あーもう、今日寝不足でやべぇから”

 “…どうなっても知らねぇからな”


 早朝での出来事を思い出し、ボッと顔が熱くなった。


「まぁ、最初から付き合ってる風にしか見えなかったし驚きもないというか」

 夜野やのくんがそう言うと、


「…だね」


「うんうん」


 夕日ゆうひちゃん、三月みつきくんも続けて言う。


 夜野やのくん達には、そんなふうに見えてたんだ…。


「てか怜王れお、昨日のアイスキャンディーキス凄かったね」

 夜野やのくんが、にこっと笑う。


 え……。


 私は氷のように固まる。


「…見てたんかよ?」


「うん、偶然夕日ゆうひ達と通りかかったら怜王れお達が見えてね」

「キス見てから夕日ゆうひにキスせがまれて大変だったよ」


「…ふわぁ、ねむ」

 夕日ゆうひちゃんは、あくびをして夜野やのくんを無視する。


 夕日ゆうひちゃん、高校だとほんとにクールだな…。


「…星野ほしの、昼飯食べよ」


「あ、うん」

「みんなはパンなんだね」


 私は鞄からお弁当箱を取り出してふたを開ける。


 カリッカリの唐揚げに、ふわっふわのゆで卵とおにぎりが入っている。


 それを見て夕日ゆうひちゃんのテンションが上がった。


「え!? 弁当すごくない!?」

「これ、ありすが作ったの!?」


「ううん、お兄ちゃんが…」


 夕日ゆうひちゃんの両目がキラキラと輝く。

「えー、えー、お兄ちゃんすごー」


「良かったら唐揚げ食べる? 美味しいよ」


「いいの!? 食べる!」


「…やめとけ」

 月沢つきさわくんが止める。


「ちょ怜王れお、なんで止めるの!?」


「… 星野ほしのの弁当が汚れる」


「はぁー!?」


「…それで怜王れお、鞄の左脇ポケットに黒い物が?」

 夜野やのくんが月沢つきさわくんに小声で尋ねる。


「…あぁ」


「…なるほどね。さっき全員の名前言ったのもわざとか」


「…恐らく放課後、黒雪やつらは動く。その時は頼む」

 月沢つきさわくんが小声で返すと、


 夜野やのくんは三月みつきくんの耳元で囁き伝えた。


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