Ice lolly6⋈約束、したのに。

1


 約束、したのに。

 破るなんて許されないのに。

 ……かもしれないのに、今日だけは許して。



「…ねむ」

 7月10日の早朝。屋上で月沢つきさわくんが無表情な顔で言った。


 月沢つきさわくんは扉の横で右膝を立てて座っている。


「ごめんね、こんな時間に呼び出して…」


「…いや、でもこんな時間によく来れたな」

「…まぁ、俺もだけど」


「今日は一人で電車に乗ってここまで来たの」

「早く高校行って勉強したいからって嘘ついて…」

「昨日、帰りが遅くなったのも図書室で勉強してたからって…」

「だけどもう、バレるのも時間の問題かもしれない」


「…なんで?」


「昨日の帰り、電車で書庫蘭しょこら高校の天川あまかわくんっていう人に会った」


 月沢つきさわくんは両目を見開く。


「それで教えてもらったの」

「白い鳥に月沢つきさわくんのことがいっぱい呟かれてるって」

天川あまかわくん、書庫蘭しょこら高校3年だって言ってたし」

「もし同じクラスだったりしたらひょう…」


 月沢つきさわくんが私の口を右手で塞ぐ。


「…分かったから落ち着け」


 私がコクンッと頷くと月沢つきさわくんが口から右手を放す。


「…天川あまかわっていう人とは話しただけ?」

「…何かされなかった?」


「何も…」


「…心配だから制服のポケットとか鞄とか見てもいいか?」


「うん」

 短く答えると月沢つきさわくんは私をぎゅっと抱き締め、


 ウィッグ、

 制服の襟、左胸のポケットに袖、

 スカートのポケットを調べていく。


 やばい。

 心臓の音、月沢つきさわくんに聞こえちゃう…。


「…やべぇな」


「え!? 何か見つかって…」


「…胸に耳当ててみろ」

 私は抱き締められたまま、耳を胸に当ててみる。


 え、月沢つきさわくんの胸、ドキドキして…。

 心臓の音が速い…。


 まさか、月沢つきさわくんも私と一緒だなんて――――。


 月沢つきさわくんは私を離す。


「…大丈夫みたいだな」

「…次は鞄見てみるわ」

 月沢つきさわくんは鞄のファスナーポケットとオープンポケットを調べていく。


 右脇ポケットまで何もないことを確認すると、最後に左脇ポケットの中に右手を突っ込む。

「…!」


月沢つきさわくん?」


 月沢つきさわくんは左脇ポケットから右手を抜く。

「…何もなかったわ」


 私はほっとする。

「そっか、良かった…」


「…ここ、暑すぎるな」

 月沢つきさわくんはそう言って立ち上がると私に手を差し出してきた。


 私はぎゅっと手を掴んで立ち上がると一緒に扉の裏のはしごの場所まで移動する。


「…日陰で涼しいわ」

「…悪いけどちょっと寝る」


 しゅるっ。

 私は月沢つきさわくんのネクタイを一瞬でほどいて、

 唇を重ねた。


 月沢つきさわくんは両目を見開く。


 私は唇を離すと、

 ぎゅっと制服のシャツを掴んで月沢つきさわくんの胸に顔を埋める。


 自分から初めてしちゃった…。

 恥ずかしすぎて、顔見れない。


「お、おやすみなさい…」


「…は? このまま寝れる訳ねぇだろ」


 だよね……。


「…ほどかなくていいって昨日言ったよな?」


「…ごめんなさい」

「昨日、月沢つきさわくんが泣いてるの見て」

「もっと月沢つきさわくんのこと知りたいって思ってそれで…」


「…あーもう、今日寝不足でやべぇから」

「…どうなっても知らねぇからな」

 月沢つきさわくんは私を離すと、唇を奪う。


「んっ……」


 耳、うなじにもキスをされ、


「ひゃっ」


 右手でセーラー服のリボンに触れようとするも月沢つきさわくんの動きが止まる。


月沢つきさわくん?」


「…期待した? 今日は、ほどかねぇよ」

 月沢つきさわくんはそう耳元で甘く囁く。


 え……。


 私が少し口を開くと月沢つきさわくんに唇を塞がれる。


 あ、甘い舌が入ってきて…。


 いろんな角度からキスをされ、

 強く、深く、絡んでいく。


月沢つきさわく…も、だめ…」

 私が倒れそうになると月沢つきさわくんは体を支え、背中からセーラー服に右手を入れてきた。


 プチッ。

 リボン付きの白いブラのホックを外す。


「…!」


 白いブラが落ちそうになり、慌てて両腕をクロスすると、

 胸に月沢つきさわくんの綺麗な手が触れ、更に白いブラのリボンに優しく触れる。


「ゃっ、待っ……」


 しゅるっ。

 白いブラの肩紐を一瞬で外され、

 壊れるくらいに甘く、深いキスをされた。


「ふぁっ……」


 私は完全に力が抜け、月沢つきさわくんと一緒に地面に崩れ落ちる。


「…危ねぇ」

「…おい、星野ほしの大丈夫か?」


「はぁ、はぁ…月沢つきさわく…」


「…ゆっくり息整えろ」

「…俺がついてる。大丈夫だ」

 月沢つきさわくんはそう言って私のウィッグを優しく撫でる。


月沢つきさわく…ウィッグ、熱い」


「…そう、じゃあ」


 月沢つきさわくんが真剣な眼差しで見つめてきた。


「…ウィッグ取ろうか?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る