4

 月沢つきさわくんは私の唇を奪う。


 唇を離すと月沢つきさわくんが私の顎を右手で掴む。

 私が少し口を開けると左手で髪を掻き分けられ……。


 甘い舌が入ってきた。


 あ、柔らかく絡んで……。


 どうしよう、もう声が出そう。

 だけど恥ずかしくて、あんなの聞かれたくない。


 月沢つきさわくんは顎から右手を離すと、


 両手で私の腰に甘く触れた。


 やばい、少しだけ声が……。


 え、強く絡んで……。


「んぁっ……」


 夕日に見せつけるかのように真っ白な月が輝きを増す。


 その瞬間、更に、

 深く、強く絡んだ。


「やぁっ……」


 私の心に絡まったリボンが極上に甘く、弾けた。



 体の力が抜けて……。


 月沢つきさわくんは立った両膝の間に私を入れたまま優しく抱き締め、

 頭を撫でる。


 首から汗が垂れた。

 そこに月沢つきさわくんの唇が甘く触れる。

 私の体がびくつく。


月沢つきさわく…」


 月沢つきさわくんは唇を離すと、

 私の肩に顔を埋めてきた。


「…なんなの、お前」

「…ほどいてもほどいてもマジで足んねぇ」


「え……」


「…そんな顔、俺以外の奴に絶対見せんなよ」


 そんな顔とは一体どんな……?


「…あー、可愛すぎてもう止まんねぇわ」


 え、電話が鳴って……。

 私じゃない。


 月沢つきさわくんは顔を上げると、ズボンからスマホを取り出し、右耳にスマホを当てる。


怜王れお、息してる?』


のぞむ先輩」


『彼女から返事はもらえた?』


「はい、会ってもいいって」


『そうか。ならもうすぐ例の場所通るから』

『ちゃんと連れてくるんだよ』


「はい」

 月沢つきさわくんはそう言うと、電話を切った。


 のぞむ先輩、穏やかな声してたな…。


 私はそう思いながらリボンをきゅっと結び直す。


月沢つきさわくん、リボン大丈夫かな?」


「…あぁ」


 私達は、はしごの前に置いた鞄をそれぞれ右肩にかける。


「…星野ほしの、時間がない」

「…行こう」


「うん」





「はぁっ、はぁっ…」

 15分後。私達はカフェとアクドナルドを駆け抜け、コンビニ前の横断歩道に着いた。


 2車線道路を挟んだ反対側の歩道にはイスタードーナッツとファミレスがある。


月沢つきさわくん、のぞむ先輩は?」

 私が息を整えながら尋ねると、月沢つきさわくんは目線でのぞむ先輩を探す。


 どうか、どうか、見つかりますように。


 2車線の道路を2台の車がすれ違い様に走り抜けた。


「…星野ほしの

 月沢つきさわくんはそう呼んで、反対側のファミレスを見る。


「あっ……」


 背の高い男の子が見えた。


 セミショートの黒髪にキャップを被り、

 穏やかで物静かな面差しに落ち着きと聡明さを漂わせていて、

 その隣には男性がいる。


「あのキャップの人がのぞむ先輩?」


「…あぁ」


「隣の人は?」


「…監察官」


 私はもう、何も言えなかった。


 のぞむ先輩が私達に気づき、見つめ合う。


 ふわり。

 月沢つきさわくんの左手が私の右手に触れた。


 ぎゅっと恋人繋ぎをする。


 優しい風が吹き、

 のぞむ先輩の髪がなびく。


 のぞむ先輩は穏やかな顔で笑った。


 月沢つきさわくんは泣きそうな顔を浮かべる。


 2車線の道路を一台の車が通り抜けた。


 のぞむ先輩と監察官の男性がイスタードーナッツの方に歩いて行く姿が見え、月沢つきさわくんは頭を下げる。


 のぞむ先輩達の背中が小さくなっていき、やがて姿が見えなくなった。


 月沢つきさわくんを見ると、顔に右手を当てて、泣いていた。

 それを見て、私も涙を流す。


 監察官がなんなのか私にはよく分からないけど、

 のぞむ先輩は監察官に四六時中見張られてる感じなのかな…。


 ねぇ、月沢つきさわくん、

 のぞむ先輩はどうして見張られてるの?

 退学にさせられたの?


 理由が知りたい。


 でも知ってしまったら月沢つきさわくんが離れて行ってしまう気がして怖い。

 だから、


 ――――お前が話したくなった時に聞くわ。


 氷雅ひょうがお兄ちゃんが前にそう言ってくれたように、

 私も自ら話してくれるのを待とう。


 そして今、月沢つきさわくんに笑って欲しい。


 月沢つきさわくんが少し泣き止んだ。

 私は右手を放す。


「…星野ほしの?」


月沢つきさわくん、待ってて」

「笑顔になれるの、買ってくる」

 私はそう言ってコンビニの中に駆け入っていく。


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