2


 それから刻々と時間が過ぎ去り、12時のチャイムが鳴り響いた。


 え、もう4限終わり?


 あ、白瀬しらせ先生、出て行っちゃった……。


「昼休みだ~」

「パン買いに行こうぜ」

 B組の男の子達も教室から出て行く。


 昼、休み…。

 氷雅ひょうがお兄ちゃんが作ってくれたサンドイッチ(コロッケ、卵ハム、ツナ)食べたいところだけど…。


 “…来なかったら金髪のことバラす”

 脳裏に月沢つきさわくんの言葉が浮かぶ。


 冷たい目線に口調。

 昨日とはまるで別人で怖いけど、

 …行かなきゃ。


 私は椅子から立ち上がり、教室を出る。


 そしてC組の前を通り過ぎると、



「なぁ、ちょっといい?」


 目つきの悪い男の子に話しかけられた。


 あ、月沢 つきさわくんの席に座ってふざけてた男の子…。


「俺、赤羽あかばねっていうんだけど」


「ごめんなさい、私行かないと…」


 ガシッ、と赤羽あかばねくんの意地悪そうな男友達に腕を掴まれる。


緑谷みどりや、ナイス」


 腕、振りほどけない…。


 赤羽あかばねくんが楽しそうに笑う。

「5分で済むから、行こうか」


 屋上に行かなきゃいけないのに。


 私は一旦諦めて赤羽あかばねくん達と歩き始める。


 あ、夕日ゆうひちゃん…。

 届くか分からないけど…。


「…ありす」

 夕日ゆうひちゃんに名前を小声で呼ばれ、目と目が合う。


 “たすけて”


 声を出さずにそう伝えて、夕日ゆうひちゃんとすれ違った。




「お前さ、月沢 つきさわとどういう関係?」

 2階の1番奥の階段横に着くと赤羽あかばねくんが尋ねて来た。


「え?」


「今朝、月沢 つきさわと話してたよな?」

「付き合ってんの?」


 付き合っ…!?


「ち、違います」


 あ、でもお友達として付き合ってる? のかな…。


「まぁ、なんでもいいわ」

 赤羽あかばねくんは投げ捨てるように言うと毒舌を吐き出す。


「永久に来ねぇと思ってたのに登校して来やがって」

「しかも黒のウィッグなんかつけて真面目くんになってさぁ」

「キャーキャー女子達騒がせて? 授業妨害、マジ迷惑」

「つー訳で」


 赤羽あかばねくんの表情が一変し、悪魔のような表情に変わる。



「お前でストレス発散させてもらうわ」



 え……。


緑谷みどりや、やれ」


「きゃっ」


 緑谷みどりやくんに壁に押し付けられる。


「お前、ちゃんと押えてろよ」


「わーかってるって」


「ストレス発散って…?」

 私は恐る恐る尋ねる。


「この状況でまだ分からねぇの?」


 赤羽あかばねくんが私の制服のリボンを乱暴に掴む。


「“悪いこと”すんだよ」


 ニヤリと笑うとリボンからパッと手を離し、今度はほどこうとする。


 私の顔が、みるみるうちに青ざめていく。


 あ、やだ。

 やだやだやだ。

 ほどかないで。


 私はぎゅっと潤んだ両目を強く瞑る。



 月沢 つきさわくん!!


「“悪いこと”って、どういうことするの?」


「教えて欲しいな~」


 腕を組んだ夜野やのくんと、にかっと笑った三月みつきくんが赤羽あかばねくん達に向けて言った。


 あ……。

 夕日ゆうひちゃん、夜野やのくん達に伝えてくれたんだ…。


 赤羽あかばねくん達がキッ! っと2人を睨む。


優等生やのバカみつきが邪魔すんじゃねーよ」


赤羽あかばねの言う通りだ。あっち行ってろ」


「あっちに逝くのはお前だよ」


 三月みつきくんは緑谷みどりやくんの首を後ろから腕で軽く締め、私から引き離すと、

 夜野やのくんが赤羽あかばねくんのネクタイをグイッと勢いよく掴む。


赤羽あかばね、今から俺が相手してやろうか?」

 夜野やのくんが、にっこり笑う。


 赤羽あかばねくんの血の気が引いてゆく。

「ひっ…」


 夜野やのくんが私を見る。

「何ボサッと見てんの?」

「さっさと行きなよ」


 私はコクンッと頷いて走り出した。




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