Ice lolly4⋈ほどかれるなら、ぜんぶ。

1

 私達の関係ってなんですか?

 どうせほどかれるならぜんぶ…、

 月沢つきさわくん、好きです。




「おい、ボーッとしてんじゃねぇ」


「…………」


「ありす」


 7月5日の朝。揺れ動く電車の出入り扉の横で氷雅ひょうがお兄ちゃんに何度も声をかけられた。


 私はハッとする。


「…ごめんなさい、半分寝てた」


 今日の電車内はサラリーマンや学生達はいるけど少し空きがあって、

 後ろから押されることもなく、薄いブルーの半袖シャツを着た氷雅ひょうがお兄ちゃんは私の前に立っている。


 氷雅ひょうがお兄ちゃんは早く寝たおかげで昨日から元気。

 私は2日連続で眠いけど…。


「寝てたじゃねぇよ。昨日も今日も」

「ほんとに大丈夫かよ?」


「あ、大丈夫。ちょっと勉強してて寝不足で…」


 ほんとは昨日も今日も興奮して眠れなかっただけ…。


 月沢つきさわくんに早く会いたい。


 だけど、眠くて……。


 ぐらっ…。

 私は前にいる氷雅ひょうがお兄ちゃんに倒れ掛かる。



「…!」

 氷雅ひょうがお兄ちゃんは私を右腕で抱き止めた。


「危ねぇ」

「ありす」

花果緒かかお駅着くまで、こうしててやるから寝てろ」


「うん、ありがとう……」


 私、ほんとにひどい妹だ。


 抱き締められたくなかったって思ったくせに、

 氷雅ひょうがお兄ちゃんのこと裏切ったくせに、


 高校で月沢つきさわくんと会うのに、


 腕の中で眠るなんて。

 だけど、氷雅ひょうがお兄ちゃんの熱も体温さえも心地よくて安心してしまう。


 今はただ、こうして眠っていたい。





「…着いちゃった」

 30分後。私は飾紐りぼん高校の正面玄関の前にいた。


 月沢つきさわくん、もう来てるかな…。


 私はドキドキしながらも足を踏み入れる。


 C組の下駄箱、どっちだっけ…。


 私が迷っていると、後ろから誰かが入ってきた。

 周りがざわめく。


「え!? 不登校の月沢つきさわ!?」


「髪、黒くなってるぞ」


「キャー! イケメン!!」


 私は恐る恐る振り返る。


 え、月沢つきさわくん、私と同じ黒色のウィッグ被ってる!?


 しかも不登校で有名から一気に人気者になって……。


「…何見てんの?」

 月沢つきさわくんが冷たい口調で尋ねてくる。


 あれ?

 雰囲気が…。


「あ、えっと…」


 私の耳元に月沢つきさわくんの極上に甘い唇が近づいてきた。



「…星野ほしの、話がある」

「…昼休み、屋上で」

「…来なかったら金髪のことバラす」


 え、私、脅されてる!?

 昨日のは夢だったのかな…。


 私が落ち込んでいると、


「おはよ」

 優等生姿の夜野やのくん、


「おは」

 変わらずハニーブラウンの髪をした三月みつきくん、


「…眠む」

 黒のショートのウィッグを被った夕日ゆうひちゃんが入ってきた。


 月沢つきさわくんがC組の下駄箱に向かうと、夜野やのくん達も着いて行く。


 挨拶返せなかった…。


 私は右肩に鞄をかけたまま、胸元に右手を当てる。


 昼休み、どうしよう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る