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「え、猫!? よだれ垂らしてて可愛くない!?」

 15分後。カップラーメンのふたを開けた夕日ゆうひちゃんが興奮気味に声を上げた。


 シーフード味のカップラーメンからは湯気が出ている。


 テーブルを囲うように月沢つきさわくん、私、夕日ゆうひちゃん、夜野やのくん、三月みつきくんが座っていて、


 テーブルには空のノンアル缶酎ハイ、

 酎ハイ入りのグラスに突っ込まれたサワー味のアイスキャンディーが5つに、コーラ、

 しょうゆ、シーフード、カレー味のカップラーメン、

 チップスのお菓子等たくさん置かれていて、色々な香りが部屋中に漂う。


「ほんとだ、ふたの猫、可愛い」

 私が夕日ゆうひちゃんのカップラーメンを見ながら言うと、


「俺のブタ猫なんだけど!?」

 三月みつきくんが驚きながら叫ぶ。


「お、レアじゃない?」

 夜野やのくんが三月みつきくんのカップラーメンを見ながら言う。


「あはは、しょうそっくり~」

 夕日ゆうひちゃんが楽しそうに言うと、


「…ベランダの仕切り板壊したの、このブタ猫にそっくりだったな」

 月沢つきさわくんが耳元で囁く。


 私は、ふっと笑う。


「何? もう秘密の誘い?」

 夜野やのくんが月沢つきさわくんに聞くと、


「…ちげぇよ」

 月沢つきさわくんが短く答える。


「なんだ、残念」


「…残念がるな」

「…星野ほしの、はい」

 月沢つきさわくんがカップラーメンのふたを開けてくれた。


 服も汚したくなかったし、氷雅ひょうがお兄ちゃんに香りでバレたらマズイと思って、

 月沢つきさわくんと同じしょうゆ味にしたけど、ほんとは三月みつきくんのカレー味が食べたかった…。


「ありがとう…あっ、私のは夕日ゆうひちゃんと同じ猫」


「…俺も」


 私に続けて月沢つきさわくんが言うと、シーフード味のカップラーメンを見ながら夜野やのくんがにっこり笑う。


「あ、俺のもよだれ垂らしてる。高校の夕日ゆうひみたいに」


「ちょ、はぁ!?」

 夕日ゆうひちゃんは顔を林檎のように赤らめながら叫ぶ。


「高校の夕日ゆうひちゃん?」

 私が尋ねると、


「今はハイテンションでガサツだけど、高校ではクールでいつも寝てるんだよ」


「何!? 凜空りく、ガサツって!」


夕日ゆうひ、命令多いもんな~」

 三月みつきくんは笑いながら言う。


 夕日ゆうひちゃんが睨むと、


「しゃあーせん」

 三月みつきくんが謝る。


「だってさ、深夜活発な分、朝、眠ぃし」


 深夜活発なんだ…。


「でもよだれは垂らしてないから!」

「それにこれでも凜空りくとは同クラだし」

「ウィッグ被るの我慢して関係バレないようにいつも必死なんだからね」

凜空りくとのことはここにいるウチらしか知らないし」


 夕日ゆうひちゃんもウィッグ被ってるんだ…。


「地毛黒だから、なかなか上手く染まんなくて嫌になる」

「夏休みになったらもっと染める予定~」

 夕日ゆうひちゃんが私に向かって言うと、


「そうなんだ」

 私は胸元に右手を当てながら力なく笑う。


 いいな、黒髪。

 どうして私は黒髪じゃないんだろう。


 月沢つきさわくんは私の頭を撫でる。

「…麺伸びる、食べよ」


「うん」


 月沢つきさわくんが割り箸でカップラーメンを食べ始めると、

 私も割り箸でカップラーメンを食べ、酎ハイ入りのグラスに突っ込まれたサワー味のアイスキャンディーを飲む。


 カップラーメン美味しい。

 酎ハイもアイスキャンディーが程良く溶け、甘くて刺激的で、

 アルコール入ってないのに酔いそう。


「おい、ありすちゃん、酔ってね?」

 三月みつきくんが言い、月沢つきさわくんは酎ハイを飲みながら私を見る。


「結局酔わせたんかよ、総…」

 三月みつきくんの口を夜野やのくんが右手で塞ぐ。


 総…?

 え、何!?


 三月みつきくんが目で謝ると、

 夜野やのくんは口から右手を離して月沢つきさわくんに笑いかける。


「…………」

 月沢つきさわくんは無言で夜野やのくん見つめた後、右手を伸ばして私の頬に触れる。


「…星野ほしの、頬が赤い」

「…一旦ベランダに出よう」

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