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「…ありす、今日も頑張れよ」

 その日の深夜。氷雅ひょうがお兄ちゃんが私の頭を優しく撫でた。


 氷雅ひょうがお兄ちゃんは部屋から出て行く。

 ぱたん、と閉まる部屋の扉。


 氷雅ひょうがお兄ちゃん、体大丈夫みたい。

 よし、着替えよう。


 私はガタッと椅子から立ち上がりベットの前で、

 だっさいTシャツを脱ぎ、裾にリボンがついた紺色のゆるTシャツに着替える。


 下は短パンのままでいっか。


 ウィッグはどうしよう…。

 金髪のままの方がわざわざ髪の事話す必要ないしいいかも…。

 だけど、


 氷雅ひょうがお兄ちゃんとの約束を今日も破ることになる。


 それは絶対にだめ。

 今更被っても金髪見られちゃってるし意味ないけど、私、約束守りたい。


 私は黒のふわロングのウィッグを被る。


 うん、昨日よりはマシになったかな…。


 昨日会えたからって月沢つきさわくんに今日も会えるとは限らない。

 だけど…会いに行かなきゃ何も始まらないから。


 私はスマホを短パンの脇ポケットに入れ、水色にゴールドの星柄がついたカーテンの前まで歩く。


 シャッ!

 カーテンを開けリボンで留めると、ガチャ、と鍵を外し、


 ――――ガラッ。

 私は扉を開けて飛び出す。


 兎がいそうな大きな満月は少し欠けていて、

 夏の夜空の星々はそれを補うようにキラキラと輝いている。


 …今日は話しかけてこない。

 いないのかな?


 私は恐る恐る穴が空いた仕切り板を見る。


 涼しい夏風が吹いた。

 綺麗な白髪がなびく。


 隣のベランダに月沢つきさわくんが立っているのが見えた。

 黒のTシャツに白のTシャツを重ね着し黒のスキニーパンツを穿いている。


 あ、いた……。



「…今日は黒髪なんだ」

「…星野ほしの、なんで泣いてんの?」


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