Ice lolly2⋈だめだって分かってるのに。

1

 だめだって分かってるのに。

 もう止められないの。

 ごめんね。




「んっ…」

 7月2日の朝。私はベットの上で寝ていた。


 ベランダの外でせみがうるさく鳴いていて、

 水色にゴールドの星柄がついたカーテンの隙間から暑い日差しが差し込んで眩しい。


「んんっ…」


 そううなりながらコロンと寝返りを打つ。


 ……あれ?

 なんかふわふわしたものが頬に…。


 私はゆっくりと目を開ける。


「!?」



 氷雅ひょうがお兄ちゃんが、なぜか隣で寝ていた。



 昨日の服装(グレーの長袖Tシャツに長い紺色のアンクルパンツ)のままで、


 私は薄いブルーのトップスにショートパンツ(トップスの背中にはクロスストラップ、ショートパンツのウエスト部分にはリボンがついてて、袖と裾にはフリルがついてる)…。


 しかも、金髪ロングの髪がボサボサで氷雅ひょうがお兄ちゃんの、き、金髪の髪の毛が頬に当たってる…。


 え…何この状況…。

 昨日一人で寝たはずなのに…。

 なんで私、氷雅ひょうがお兄ちゃんと一緒に寝てるの?


 私はハッとする。


 あ…夢?

 きっとそうだ、夢でも見て…。


「んんっ…暑ちぃな」

 氷雅ひょうがお兄ちゃんのまぶたがゆっくりと持ち上がった。


「……は? なんでありすが…」


 いや、こっちの台詞なんだけど…。


「あー、そうか」

 氷雅ひょうがお兄ちゃんは何かを思い出したかのように自分のおでこに右手を当てる。


「昨日、アイスコーヒー置いてお前の部屋出た後」

「そのままバイト行って家に戻って来て自分の部屋だと思って寝たんだが」

「悪りぃな。どうやら部屋間違えたみてぇだ」


 氷雅ひょうがお兄ちゃんが24時間営業のカラオケ店でバイトしてるのは知ってるけど、部屋間違えちゃうくらい疲れてたなんて…。


「そ、そうなんだ…気をつけて…」


 …え、氷雅ひょうがお兄ちゃんに見つめられ…。


「なんだ、睫毛まつげか」

 氷雅ひょうがお兄ちゃんはそう言って指で目の下についた睫毛まつげを取ってくれた。


 私の顔が熱くなる。


 昨日は月沢つきさわくんにだっさいTシャツに短パン姿見られて、

 今日は氷雅ひょうがお兄ちゃんに睫毛まつげ取られて…私、ほんとに恥ずかしい…。


「起きたらちゃんと顔洗えよ」


「…あの氷雅ひょうがお兄ちゃん、バイト辛いならやめてもいいんだよ?」


「は?」


「私がバイトするし」


「やめねーよ」


「でも氷雅ひょうがお兄ちゃんが倒れちゃったら…」


 …え、氷雅ひょうがお兄ちゃんにぎゅっと抱き締められ…。

 ほんのりスパイシーなシトラスの香りがして…。

 なんだろ、甘くて暑い…。 

 それにショートパンツのウエストのリボンがほどけそう。



「俺のことなんて心配すんじゃねぇよ」

「自分のしあわせだけ考えてろ」



氷雅ひょうがお兄ちゃんっ…」


 あぁ、やばい。

 朝から泣きそう。


 涙をぐっと堪えると、氷雅ひょうがお兄ちゃんは私を離し、

 起き上がってベットから降りる。


「充電したからもう大丈夫だ」

「朝飯作ってくる」

 氷雅ひょうがお兄ちゃんはそう言うと部屋から出て行った。

 ぱたん、と扉が閉まる。


 氷雅ひょうがお兄ちゃん、元気? になって良かった…。


 私はハッとする。


 …あ、そうだ、鞄!


 私は起き上がってベットから降り、学習机の横のフックにかかった鞄を取り、床に置く。

 そしてしゃがんだまま鞄のチャックを開けて中を見る。


 アイスキャンディーの空袋、あった…。 

 机の中だと氷雅ひょうがお兄ちゃんに見つかると思って、

 鞄の中に入れてあるファイルの隙間に挟んでおいて良かった。


 私はそう安堵あんどしながらファイルを鞄から取り出してぎゅっと抱き締める。


 今後もバレませんように。

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