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 私が高校生になる前の春休み。


氷雅ひょうがお兄ちゃん、どうしたの?」

 居間で呆然と立つお兄ちゃんに話しかけた。


 氷雅ひょうがお兄ちゃんは暗い顔をする。

「…両親とも出て行った」


「え?」


 お母さんとお父さんが?

 氷雅ひょうがお兄ちゃん、何言ってるの?

 意地悪言わないでよ。


「あ、手紙? 見せて」


「お前は見るな」


氷雅ひょうがお兄ちゃん、見せてよ…!」


 私が無理矢理取ろうとすると、

 ひらり。


 氷雅ひょうがお兄ちゃんの右手から手紙が床に落ちる。



『ありす、氷雅ひょうが


 あたし達ね、ずーっとあんた達が母と同じ金髪なのが嫌だったんだけど、


 イイ人が見つかって違う人と暮らすことになったから、

 明日から2人でよろしくね。


 生活費は先に出て行ったお父さんが入れるから。


 じゃあね、元気でね。


 母と父より。』



「なん…で…」

「私達、捨てられちゃったの?」


 私はその場で崩れ落ちた。


「ありす!」

 氷雅ひょうがお兄ちゃんが必死な声で叫ぶ。


「明日から2人でよろしくねって…何?」


 お母さんとお父さんがイギリス人の祖母と仲が悪いの知ってた。


 “祖母と同じ金髪じゃなくて、あたし達と同じ黒髪だったらね”って毎日呟いてた。

 だから髪のこと気にしてたのに。

 まさか別に愛人がいたなんて。


 私の両目から大粒の涙が零れ落ちていく。

 氷雅ひょうがお兄ちゃんは私よりも切ない顔をする。


「私が金髪だから出て行ったの?」

「私のせいなの…!?」


「違う」


 氷雅ひょうがお兄ちゃんは否定すると私をぎゅっと抱き締める。


「お前は何も悪くねぇ」

「金髪だって憧れの色だ。おかしくねぇよ」

「みんな染めてんじゃねぇか」


「でも中学校で金髪のままでいたら、みんな変な目で見てきたよ」

「先生にも特別扱いされて…」


「ありす、大丈夫だ」

「俺がいる」


氷雅ひょうがお兄ちゃっ…」



「2人で生きて行こう」



 もう涙が止まらなかった。



 氷雅ひょうがお兄ちゃん、

 一緒にいてくれてありがとう。



 それから2人で黒のウィッグを遠くのコスプレショップまで電車に乗って買いに行った。

 コスプレショップはビルの5階にあり、試着室で自分で選んだ黒のふわロングのウィッグを被ってみる。


「被れたか?」


「うん」

 私が短く答えると氷雅ひょうがお兄ちゃんがシャッ! と試着室のカーテンを開ける。


「…どう? 氷雅ひょうがお兄ちゃん」

 私は恥ずかしそうに尋ねる。


「似合ってる」

 氷雅ひょうがお兄ちゃんはそう言うと中に入ってきてカーテンを閉めた。


 そして私の頭を撫でる。


「高校からは中学の連中とは別れて知らない奴らばかりだ」

「俺は金髪で通ったが、お前は黒髪ってことにすればいい」

「金髪なのは俺だけが知ってればいいだろ?」


「そうだね」



「登校する時は必ず黒のウィッグ被ること、いいな?」



「うん、分かった」



 私は氷雅ひょうがお兄ちゃんとふわふわのカーテンの中で約束した。

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