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「あ、ごめんね、びっくりして…」

「私、今まで友達いなかったからすごく嬉しい」

 桃住ももずみさんは目を潤ませ、にこっと笑った。


 それを聞いてわたしは、ほっとする。


雪羽ゆきはちゃんって呼んでもいい?」


「うん」

「わたしは春花はるかちゃんって呼んでも…」


「もちろん」

 春花はるかちゃんは嬉しそうな表情を浮かべる。


「わ、わぁー嬉しいな」

「あっ、そうだ、ライン! 交換とか…」


「うん、したい」


 わたしと春花はるかちゃんは雪色のブレザーのポケットからスマホを取り出す。


 わたしのスマホは白色。

 春花はるかちゃんのスマホは桃色。


 わたし達はラインのIDを交換した。


「早速届くか、やってるみるね」

 春花はるかちゃんはスマホで文字を入力し、トークを送ってくる。


『桃ずきんです。雪羽ゆきはちゃんよろしくね』


 わたしはその返事を返す。


『黒ずきんです。春花はるかちゃんよろしくね』


「おんなじ!」

 わたしと春花はるかちゃんは、ふっ、と優しく笑い合う。


雪羽ゆきはちゃん、これから、いっぱいライン送るね」


「うん」


「あっ、それから、今日の放課後、相可おおかくん達とラスバーガー行くことになったけど、雪羽ゆきはちゃんも行くよね?」


「あ、うん…」


 どうしよう、咄嗟に嘘ついちゃった…。

 行けないのに。


「良かった」

雪羽ゆきはちゃんいると心強いな」

「放課後、楽しみだね」


「うん、じゃあわたし教室に戻るね」



 時間が過ぎ、放課後。わたしが右肩に鞄をかけ、トイレから1年A組の教室に戻ると、


「俺、やっぱパスで」


 相可おおかくんが、林崎りんざきくん、姫乃ひめのちゃん、春花はるかちゃんが鞄を肩にかけて立っている中、ラスバーガーに行くのを断っていた。


「え…」

 春花はるかちゃんが動揺する。


ぎんなんで?」

 姫乃ひめのちゃんが理由を聞いても相可おおかくんは何も答えない。


「…………」

 林崎りんざきくんはただ黙って相可おおかくんを見つめる。


 相可おおかくん、もしかして、わたしに気を使ってくれてる?

 だめ、そんなの。


 わたしはぎゅっと鞄の紐を持ち、勝ってに一人で帰って行く。



 しばらくして、

雪羽ゆきはちゃん、遅いね」

 りんがそう言うと、


「大丈夫かな…」

 春花はるかが心配する。


黒図くろず、トイレに行ったんだよな?」


「うん、トイレに行くって鞄持って出て行ったよ」

 姫乃ひめのが答えると、


「は? 鞄? マジでふざけんなよ」

 ぎんはキレて窓まで駆けて行く。



 わたしが校庭を歩いていると、


 ――――ガラッ!

 1年A組の教室の窓が開く。


黒図くろず!」


 え、相可おおかくんが叫んだ声が聞こえ…。


 わたしは振り返ると、相可おおかくんが開いた窓から顔を出していた。


 相可おおかくんに見つかっちゃった…。


 わたしはダッと走り出す。



「はぁっ、はぁっ…」

 わたしは歩道で足を止めて息を整える。


 走ったから疲れちゃった…。

 あ、信号が青から赤に変わりそう。

 早く渡らなきゃ。


 わたしはふらつきながらも歩き出す。


 パッ。

 歩道の信号が青から赤に変わる。


 あ、隣からバイクが走ってきて…。


 ――――それでも俺の隣にいろよ。

 ――――絶対離れるな。


 昨日、相可おおかくんにそう言われて、うんって言ったけど、


 ごめんね、相可おおかくん。

 隣にいるって言ったのに、

 もういられないみたい。


 相可おおかくんが後ろから駆けてきた。


 バイクの眩しい光がわたしの全身を照らす――――。



黒図くろずっ!」


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