Silver snow12*隣にいるって言ったのに。

1


 ごめんね、相可おおかくん。

 隣にいるって言ったのに、

 もういられないみたい。



 12月14日の昼休み。わたしが1年A組の教室に戻ると、わたしの席に桃住ももずみさんが座っていた。


 右隣には林崎りんざきくん、


 左隣には相可おおかくんが座っていて、


 姫乃ひめのちゃんは近くに立っており、


 桃住ももずみさんは相可おおかくん達と楽しげに話している。


 幸いゆりちゃん達はいない。


 わたしはそれを見て唖然とし、固まる。


 なんで桃住ももずみさん、わたしの席に座ってるの?

 なんだろう……胸がもやもやする……。


 桃住ももずみさんは相可おおかくんに頬を緩ませ笑うと、わたしの存在に気づいてわたしの方を見る。


「あっ、黒図くろずさん…」

 桃住ももずみさんは申し訳なさそうな顔をする。


「勝手に席借りちゃってごめんなさい」

「気分悪くて少し休ませてもらってたんだ」

「すぐ戻るね…あっ」


 桃住ももずみさんはふらっとし、左隣の相可おおかくんに寄り掛かる。


 相可おおかくんが肩を抱き、起こす。


 それを見てわたしは複雑な気持ちに駆られる。


「大丈夫か? 桃住ももずみ


 桃住ももずみさんの顔が、かあっと赤くなった。

 わたしの胸がどくん、とざわめく。


 わたしは自分の胸に手を当てる。

 どうしよう、なんか心がズキズキする。


「ごめんなさい、相可おおかくん」

 桃住ももずみさんは遠慮がちにそう言うと、


黒図くろずさんもごめんね」

 申し訳なさそうな表情をしながら謝ってきた。


「あの、桃住ももずみさん、保健室行きませんか?」

 わたしが声をかけると、桃住ももずみさんの両目が揺らぐ。


「え、でも…」


 あ…、迷惑だったかな…。

 でもわたし、桃住ももずみさんと話したい。


「気分悪いの我慢しちゃだめ。行こう」


「うん、黒図くろずさん、ありがとう」

 ガタッ、と桃住ももずみさんがわたしの席から立ち上がる。


 わたしは桃住ももずみさんの体を支えながら後ろの扉に向かって歩き出す。


「黒ずきんと桃ずきん、ほんと似てるねー」

「姉妹みたい」

 周りの女の子達が言う。


「…………」


「…………」


 そんなわたし達を相可おおかくんと林崎りんざきくんは険しい顔で黙って見ていた。



「保健室まで連れて来てくれてありがとう」

 しばらくして保健室の前に着くと、桃住ももずみさんがお礼を言った。


「私、黒図くろずさんと同じで喘息持ちで体弱いから助かっちゃった」


 桃住ももずみさんも喘息持ちなんだ…って、あれ?

 わたし、話してないのに…。


「え? なんで知って…」


「あ、相可おおかくんから聞いて…」


 相可おおかくん、桃住ももずみさんにわたしが体弱いこと話したんだ…。


黒図くろずさん、私、一人でちゃんと寝れるから大丈夫だよ」

相可おおかくん達待ってる」

「早く教室に戻って」

 桃住ももずみさんが、ふわっと笑う。


「あの、桃住ももずみさん」

「良かったらわたしとお友達になりませんか?」

 わたしが勇気を出してそう言うと、


「え?」

 桃住ももずみさんはびっくりして固まる。


「え?」

 わたしも驚く。


 嫌だったかな…。

 わたし、黒ずきんだもんね…。

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