Silver snow11*隣の席になった意味ないもん。

1


 泣くよ。

 だって、

 隣の席になった意味ないもん。



雪羽ゆきはちゃん、昨日は大丈夫だった?」

 12月13日の朝。右隣の林崎りんざきくんに心配そうな表情で話しかけられた。


 ――――土日に出掛けるの禁止。平日も真っ直ぐ帰ってくること、いいわね?


 昨日、お母さんにそう言われたけど、言えない。

 言ったら林崎りんざきくん気にしてしまうから。


「うん、大丈夫だったよ」


「…嘘が下手」

 林崎りんざきくんは聞こえないような小さな声で呟く。


「え?」


「なら、良かった」

 林崎りんざきくんは、にこっと笑う。


「え、今日、ぎんくん休み?」

 ゆりちゃんがそう言うと周りもざわざわし始めた。


 わたしは1年A組の教室で左隣の席を見る。


 そういえば相可おおかくん来ないな。


 もう登校しててもおかしくないのに。

 どうしたんだろう?


「ねぇ、りんぎんから連絡あった?」

 姫乃ひめのちゃんが心配そうな表情で尋ねると、


「…守るって言ったくせに」

 林崎りんざきくんがボソッと呟く。


「え? りんなんて?」


「連絡ないよ」

 林崎りんざきくんは短く答える。


 相可おおかくんにラインしてみようかな…。


 わたしはスマホを鞄から取り出す。


 でも、林崎りんざきくんと手繋いでるところ見られちゃったし、お母さんのこともあるし、やっぱり、出来ない。


「そっか…中学の時も突然来なくなったから心配」


「そうなの?」

 わたしが姫乃ひめのちゃんに聞くと、姫乃ひめのちゃんは切なげな表情をする。


「うん…」


 2人は相可おおかくんの過去を知ってる。

 だけどわたしは何も知らない。


「昨日、雪羽ゆきはちゃんのお母さんに言われたこと気にしてるのかもね」

 林崎りんざきくんがそう言うと、姫乃ひめのちゃんはびっくりする。


「え!? 雪羽ゆきはちゃんのお母さんに会ったの!?」


「あー、うん。コンビニの近くに3人でいたら偶然会って」

「『銀髪ヤンキーが話しかけてこないで』って拒絶されてね」

 林崎りんざきくんはそうさらりと言うと真面目な顔つきに変わる。


ぎん、もう高校に来ないかもね」


 そんな…。


 喉が熱くなる。


 ぜんぶ、わたしのせいだ。


 わたしが嘘ついて林崎りんざきくんに会いに行かなかったら、


 相可おおかくんにデートだって勘違いされることも、相可おおかくんがお母さんに会って拒絶されることもなかった。


 土日に出掛けるの禁止も平日も真っ直ぐ家に帰ることにはならなかったのに――――。


 ぽん、と林崎りんざきくんがわたしの頭に手を乗せる。

雪羽ゆきはちゃん、大丈夫だよ」


「俺が“全部から守る”から」


 ふとわたしの脳裏に相可おおかくんの姿が浮かび、相可おおかくんの言葉を思い出す。


 ――――俺はお前を手放すつもりねぇから。


 相可おおかくん…。


 寂しさでわたしの胸がきゅっと痛む。


 いつも、当たり前のように相可おおかくん隣の席にいたのに、今日はいない。


 相可おおかくんの席だけが、一つだけ空いてる。


 それが、すごく悲しくて、苦しい。

 苦しいよ……。



 時間が過ぎ、4限。1年A組では保健体育の授業が行われていた。


「あっ! ぎんくん!」

 窓側の1番前の席に座っているゆりちゃんが声を上げる。


「ほんとだ」

ぎんくんだ!」

 ぎんくんファンの女の子達が、次々と立ち上がって窓際に集まる。


 姫乃ひめのちゃんと林崎りんざきくんも立ち上がり窓まで歩いて行く。


 ガタッ。

 わたしも慌てて勢いよく席から立ち上がると、机の脚に膝をぶつけた。


「痛っ」

 痛みを堪えながら窓まで駆けて行く。


「何やってる!」

「まだ授業中だぞ!? 座れ!」

 日向ひゅうが先生がわたし達に怒鳴る。


 硝子張りの窓から、ほのかな暖かな光が差し込む。


 窓の外を見ると花びらのような雪が降っていた。


 わたしの両目にも、くっきりと校庭を歩いている相可おおかくんの姿が映った。


 黒のパーカーの上に雪色のブレザーを羽織り、右肩にチョコレート色の鞄をかけた制服姿の相可おおかくん。


「っ…」


 相可おおかくん――――。


 わたしの両目に溢れるような輝きが満ちた。


 わたしは口を両手で押さえる。

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