2
*
中3の2月の終わり。
「
ゆるふわな髪をし、お洒落な格好の母が笑顔で言った。
いつも、だらしのない格好の母さんがお洒落をして笑顔の時は決まって男の家に行く時。
「今度はいつ帰ってくるの?」
白のカーディガンに学ランを着た
「すぐよ」
「じゃあ
だけど届くことはなく――――母は可愛らしい鞄一つを持って家から出て行った。
「…またしばらく一人か」
「もしもし? めい?」
『
めいは彼女で俺の救い。
「じゃあ俺の学校で」
数分後、中学校に着くとセーラー服を着た女の子、
めいは
「めい、そのセーラー服どうしたの?」
「俺の中学のだよね?」
「
「
「楽しみ」
めいが、にっこり笑うと
「…ほんと、悪い子だね」
しばらくして鍵の開いた教室に入ると、めいはカーテンが閉まった窓の下に座り、めいの膝に
「…そっか」
「またお母さん、出て行っちゃったんだね」
「ねぇ、
「ん?」
「卒業式の時、手、ぎゅってしに来てくれる?」
「いいよ、約束」
そう言って
そして制服のリボンをしゅるっと外し、
ドサッ……。
押し倒すとめいは、
「やっぱり、
そう言って
その笑顔が溶けて泡のように消える。
最後なんて思いもせずに。
そしてめいの中学の卒業式の日。
しかし、めいは男の子と抱き合っていた。
ナイフを心臓に刺されたかのような痛みが心に走った。
「…なんだ」
母さんと一緒か。
もう二度と本気になんかならない。
儚い桜の花びらが降り注ぐ。
手、ぎゅっとしたかった。
*
「――――その翌日に俺も中学を卒業した」
「後から
「めいと抱き合っていた男の子は、めいが好きでいきなり抱きついてきただけで」
「めいは断ったらしい」
「それからずっと俺を待ち続けて俺が来なかったショックで大泣きして帰ったって」
「どうして信じられなかったんだろう」
「あの時帰らずに、めいと手をぎゅっとしてたらどうなってたかな」
「…なんて、つまらない話してごめんね」
その笑顔にぎゅっと胸が締め付けられる。
「いえ…」
「あ、もう時間だね」
もう30分経ったんだ…。
あっという間だったな。
「
ズボンのポケットから飴を取り出す。
あ…林檎の飴…。
わたしは入学式のことを思い出す。
怖いけど…入学式の時のこと聞いてみよう。
「あの」
「ん?」
「入学式の時、銀のミルクっていう飴、貰ったことがあって」
「その時、
どくどくどく、とわたしの心臓の音が速まる。
「うん、そうだよ」
その答えを聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。
「
「飴はどっちなんだろう?」
「え」
「まだ教えてあげない」
「っ…」
なんで意地悪言うの?
「親にはコンビニでアップルティー買ってくるって言って出てきたんだよね?」
「コンビニまで送って行くよ」
*
それからチェリバから出てコンビニの近くまで来た。
「
「ここでもう大丈夫です」
「…………」
ゆるふわな髪をし、お洒落な格好の女性がだらしない男性と手をぎゅっと繋いで楽しそうに反対側の歩道を歩いていた。
あの人って、もしかして
「
「休めば大丈夫だから、コンビニでアップルティー買って今日はもう帰って」
でも違ってた。
わたしは
だからこんなの間違った感情だって分かってる。
でも、わたし今、
わたしの両目が潤む。
「寂しかったよね」
「痛かったよね」
「でももう大丈夫」
わたしは手を差し出す。
「
わたしと
「
この声は…。
まさか、
黒色のダッフルコートを羽織った
「これは違っ…」
「こっちはデート。
「ジュース買いに来ただけ」
「じゃあな」
あ……。
待って、
「
手を放し後ろを振り返るとエコバッグを右手に持ったお母さんが立っていた。
「あ、お母さん…」
わたしの顔が青ざめると、
「ピアスつけた黒髪のヤンキーに」
「ピアスつけた、ぎ、銀髪のヤンキー!?」
お母さんは信じられないという顔を浮かべる。
「電話でお父さんから聞いたわ」
「
「嘘だったの?」
「あ、違…」
わたしがそう言いかけると、
「違います」
「俺達は
「アップルティーを買い来た
お母さんは
「あなたには聞いてない」
「銀髪ヤンキーが話しかけてこないで」
お母さん、なんでそんなこと言うの?
「
「うん…」
わたしはお母さんに連れられ歩いて行く。
*
「庇ってくれなんて頼んでないけど?」
「
「フォローになってないじゃん」
「まずいね、あれは」
「
「…………」
*
数分後、家に着くと居間に連れて行かれる。
「お父さん!」
「母さん、どうしたんだ?」
「そんなに声を荒げて」
「
「なんだって?」
どうしよう…何か反論しなきゃ。
でも隙がない。
お母さんは、ふぅ、と息を吐く。
「最近、おかしいと思ってたら、こういうことだったのね」
お母さんはわたしを心配と怒りが入り混じった表情で見つめる。
「土日に出掛けるの禁止」
「平日も真っ直ぐ帰ってくること、いいわね?」
お母さんは厳しくそう言った。
そんな…。
*
部屋に戻ると一気に疲れてベットに崩れ落ちる。
なんでこんなことに…。
「ゴホゴホッ…」
わたしは咳き込む。
息するの苦し…でも心の方がもっと苦しくて痛い。
やだ、やだよ。
お願い、禁止にしないで。
わたしは、しゃくりあげながら願いをぽつり呟く。
「…
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