Silver snow7*隣で待ってる。

1


 雪の羽なんてすぐに溶けてしまう。

 それでもあらがって飛び続ける。

 だから…待っていて。



「ゴホゴホッ…」

 12月8日の朝。わたしは自分の部屋で咳き込んでいた。


 ふわり。

 お母さんが、わたしのおでこに優しく手を当てる。


「熱はないみたいね」

「だけど咳出てるから大事を取って今日は高校休みなさい」

「高校には連絡しておくから」


「うん…」

 わたしが短く答えるとお母さんは部屋から出て行く。


 ぱたん…。

 部屋の扉が閉まった。


 わたしは、はぁ、と小さく息を吐く。


 喉が痛い。

 苦しい。

 でも、一番苦しいのは、心。


 昨日保健室で相可おおかくんが姫乃ひめのちゃんにキスしようとしていた時の場面が、わたしの頭をぎる。


 キスしたところを見た訳じゃない。

 何かの見間違いかもしれない。


 だけど相可おおかくんが眠っている姫乃ひめのちゃんに顔を近づけていったのは事実。

 あんな場面見ちゃったし、高校休んで逆に良かったかも…。


 季節の変わり目、ほんとだめだな。

 わたし、ちょっと調子に乗ってたかもしれない。

 今はただ、寝てよう。


 それから少しうとうとしていると、ピロン♪

 枕の隣に置いてあるわたしの白色のスマホから音が鳴った。

 わたしは寝たままスマホを手に取って見てみる。


 グループトーク… 姫乃ひめのちゃんからだ。


『イケメンから聞いた』


 イケメン!?

 誰!?


 メッセージをタップし、ラインのグループトーク画面を開く。


雪羽ゆきは、今日風邪でお休みだって』


 あぁ、イケメンって担任の池田先生のことか…。


 ぽん。

 トークが更新され流れていく。


雪羽ゆきは、ごめんね』

雪羽ゆきはが一番体調悪かったのに』

『私がぎんと保健室行ったから保健室使えなかったよね』


『ううん、気にしないで』

『わたしは大丈夫だから』

姫乃ひめのちゃんこそ、体調大丈夫?』

 わたしがトークを返すと、


『私はもう大丈夫』

雪羽ゆきは、ありがとう』

 姫乃ひめのちゃんからそう返ってきて、ほっとする。


『じゃあ、りんにバトンタッチするね』


 え…。

 林崎りんざきくんに!?


 わたしはスマホの画面をじっと見つめる。


雪羽ゆきはちゃん』

『昨日はごめんね』


 今日は謝られてばかりだな…。


『今から電話で話せる?』


 え…今から電話で話!?

 林崎りんざきくんと!?


 わたしはトークを返す。

『咳が少し出るくらいなので大丈夫です』


『分かった』

『じゃあ手短に謝らせるね』


 え、手短に?


 電話がかかってきた。

 わたしは飛び起きてベットにちょこんと座り直し、胸をドキドキさせながら電話に出る。


『もしもし!?』

『黒ずきん? ゆりだけど』

 わたしはトゲトゲした大きな声に驚く。


「え、ゆりちゃん…?」

 弱々しい声で尋ねると、


『何勝手に高校休んでんの?』

『ちょーウザイんだけど』

 ゆりちゃんに罵声を浴びせられる。


『ちょっと、ゆり!』

 姫乃ひめのちゃんの慌てた声が聞こえると、


『早く謝んなよ』

 林崎りんざきくんの怒った声が聞こえてくる。


『昨日は青井使ってひどいことしてごめん』

『でもさ、黒ずきん最近強くなったよね』

『そこだけは認めるけど』


ぎんくんは“ みんなのぎんくん ”で誰のものにもならないから』

『“特別 ”なんて許さないから』


 ゆりちゃんから林崎りんざきくんに声が変わる。


雪羽ゆきはちゃん、ごめんね』

『アレでも謝ってるつもりだから』


「ううん」


『ゆっくり休んで』


雪羽ゆきは、お大事にね』

 姫乃ひめのちゃんの声も隣から聞こえてきて、嬉しくて、わたしの両目がじわりと潤む。


 わたしの為にゆりちゃん謝らせてくれるなんて…。

 本当に感謝しかない。


「うん、2人ともありがとう」

 わたしがそうお礼を言うと電話が切れた。


 ベットに横になり、スマホをぎゅうっと抱き締める。


 姫乃ひめのちゃんや林崎りんざきくんの声聞けて良かった…。

 でも、相可おおかくんの声も聞きたかったな。


 わたしはスマホを抱き締めたまま、すぅっと眠りについた。

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